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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第六十話 ニーズホッグ、又の名を嘲笑する虐殺者
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は十分な準備をしてから遠征軍を出す予定だった。出征は少なくとも半年は先と見ていたんだ。その間に政府に国内の情勢を安定させる、そういう心づもりだった』
「それが何故?」

リューネブルクの表情が歪んだ。どうやら予想以上に酷い事らしい。
『……貴族達が自分達が軍を出すと騒ぎだした』
「馬鹿な……」
『事実だ、平民達を黙らせるために反乱軍を叩く。軍が出征に時間がかかるのなら自分達がそれを行うと……』

「……怯えているのか、貴族達は」
気が付けば声が掠れていた。
『そうだ、怯えている。カストロプの一件が原因で一千万人が死んだのだ。どんな豪胆な貴族でも震え上がるだろう。しかも一千万で終わると言う保証は無い、これからも殺し続けるとヴァレンシュタインは言っているんだ』

『連中の出征など到底認められない。実戦経験など皆無の連中だ。そんな連中が同盟に勝てると思うか』
嘲笑交じりの声だった。リューネブルクは顔を歪めて笑っている。

「無理だ、到底勝てない」
『その通りだ、間違いなく殲滅される。だがそうなれば国内情勢はどうなる。より一層不安定なものになるだろう』
「だから早急に軍を出すと……」
『そういう事だ』

貴族を宥めるために否応なく早急に軍を出さなければならない、そういう事か……。となれば大軍を率いてという訳にはいかない、主力は俺の艦隊か……。今度こそあの男と戦う事になる。

『負けられんぞ、ミューゼル中将。負ければ全てが終わる、帝国も卿もだ』
その通りだ、負けることは出来ない。だがこの状況で勝てるのだろうか? 負けられないという思いと勝てるのかという疑問が何度も胸に湧きあがった。

ヴァレンシュタインと対峙するときはいつも同じ思いをする。これから先もそうなのだろうか、いやこれから先が有るのだろうか……。馬鹿な、何を考えている。必ず勝つのだ。勝たなければならない……。



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