X.決戦
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。皆が愉しげに花見をしていると、そこへ牛車と共に多くの人々がやって来て言った。
「其方ら、いと尊き御方が花を愛でる故、この場より下がられよ。」
どうやら中央貴族のようであり、姫の使用人達は慌てて桜の下より離れようとしたが、姫はそれを止めさせて言ったのだった。
「花は愛でる者を選びませぬ。それ故、花の下には身分なぞ存在せぬもの。桜は神の座する場所であり、我らはただの人故に…。」
姫の言葉を聞いた牛車の周囲を固めていた男達は、その顔を真っ赤にして怒り、腰の剣を抜き払った時だった。牛車から笑い声が聞こえてきたのだった。
「いや…正しくその通りだ。皆の者、剣を引いてこの者らと花を愛でようではないか。案ずるよりも、皆が楽しむことこそが花見ぞ。そこに身分など何の意味があろうか。」
そう言って牛車から降りて来たのは、未だ幼さの残る青年だった。その青年に、姫は一目で心を奪われてしまったのだ。
「美しき姫よ、我らが非礼を御許し願えますか?」
「誰も非礼などしてはおりませぬ。貴方様のお供はただ、主のために私共を下がらせようと心配りをしただけに御座います。それ故、貴方様が許しを乞う必要は御座いませぬでしょう?」
「では、ご一緒に宜しいでしょうか?」
「無論ですわ。皆様とご一緒に愉しめれば、私共も嬉しゅう御座います。時尚、あと如何程ありますか?」
姫は若き貴族の青年との会話の後、お付きの者に持ってこさせた酒や食べ物がどれ程残っているかを確認した。
「姫様、この人数でも充分に足りまする。」
この姫は、四季折々に自然を楽しむために出掛けては、多くの酒や食べ物を運ばせていた。理由としては、わざと余るようにし、残りを貧しい町の人々に配るためだったと言われている。
その花見の後、若き貴族の青年はこの姫と度々逢い、そうして暫くは細やかな逢瀬を楽しんでいた。しかし、この縁が最悪な結果を招いたのだった。
在る朝、父である右大臣に呼び出された息子は、父の口から耳を疑いたくなるような言葉を聞かされた。
「お前は我が顔に泥を塗る気か!下賤の女子と現を抜かすとは…恥を知れ!」
「父上様、私はあの姫を…」
「黙りおれ!何が姫じゃ!あれは貴族と言えど新参者。我が由緒在る家系とは相容れぬ下賤の家系じゃ。」
右大臣は息子の言葉になぞ耳を貸さず、凄い剣幕で捲し立てた。そして、最後にはこう言ったのだ。
「お前は私を継いで右大臣となり、帝を補佐せねばならぬのだぞ?それ故に命ずる。お前の心を断つため、お前自身でその女子の首を刎ねて参れ。」
「!!」
あまりのことに、息子は言葉が出なかった。この命に従わなくば、いくら息子とてただでは済まない時代だ。だが、この右大臣の言葉の裏には、多くの有力貴族の思惑が見え隠れしていた。逢い引きが発覚したのも、その有力貴族の一人が
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