暁 〜小説投稿サイト〜
明日へ吹く風に寄せて
X.決戦
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条の光 影を裂きたり -

 始めは緩やかに進むこの舞は、徐々に荒々しくなって行く。淡く小さな火から大きな焔へと変化する様を型取ったもので、舞手にとっては体力勝負と言える舞なのだ。しかし半ばを過ぎて終りの一連になると、出だしで見せたような穏やかさが戻り、全体にはシンメトリー的な要素を採り入れているように感じさせる舞だ。

- 灰なれど 焔昇りし 証なり 君を想いて 舞を捧げん -

 最後の結句は四つの舞に共通し、後半の七七は全く同じなのだ。これは飽くまで「貴方のために」との意味を強調するためと考えられている。
 解呪師とは縛られてる者を解き放つ仕事であり、その逆は有り得ないのだから。そのため少しでも想いを伝えようと、このように歌を詠んだのかも知れない。
「禍を齎す者よ、我が問いに答えよ。」
 舞いを終えて千年桜に向かって僕が言うと、女性の弱々しい声が響いてきた。舞いの力で浄化され、霊力が衰えた証拠だ。


- 汝は何者じゃ…。私に何を語れと申すか…。 -

「貴女は何故にこの場に在るのですか?」

- 私は此処で殺されし故に…此処で愛しき者を待つため… -

「何故に待つのでしょう?」

- 私を一人、此処へ捨て置きし故に…。私はあの御方を憎み続ける者なれ… -

「貴女の名は…?」

- 私の名は…春桜姫…。 -

「……!」
 暫く問答を交わしていたが、最後に名を聞いて皆、その目を見開いてしまったのだった。

 この此花町には、一つの伝承が残されている。それは江戸初期にまで遡る話であり、そこに登場するのがこの“春桜姫”なのだ。
 古き時代、この町にはそれは美しい姫君がいた。美しいだけでなく聡明で優しく、多くの貴族の殿方に求婚されていたという。
 しかし、姫はそれを尽く断っており、ある日両親がその理由を姫に尋ねたのだった。
「何故に縁談を断り続けるのだ?どれも良い縁談であったであろう。」
 父がそう問うと姫は黙っていたが、暫くして弱々しい声でこう言った。
「私にはお慕い申上げる御方がおりまする。故に、その御方でなくば嫁ぎとうございませぬ…。」
 これを聞いた両親は、驚きのあまり言葉を失った。
 自由恋愛が厳しい上に、女が見下されていた時代。そこにあってこの姫は、自分の意思を貫こうとしたのだ。
 しかし、貴族とて人の子だ。この姫の両親は、なんとか娘のためにと、その想い人の名を聞き出そうと試みた。最初は頑なに明かそうとはしなかったが、ついにはその名を口にしたのだった。
「なんと…あの御方を…!」
 姫が慕う者の名を聞き、両親は頭を抱えて狼狽えてしまった。
 この姫がその御方に初めて出会ったのは、春の盛りの頃だった。
 姫は今で言う千年桜が好きで、その下に使用人達と花見に来ていた
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