V.千年桜の亡霊
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が南を統治し櫪家が北を統治したのだが、暫くして土地が戦に巻き込まれ、それに乗じて櫪家は、本家たる柳澤家を滅ぼしてしまったのだ。下剋上の時代の話だが、現在までもその影を引きずっているのが実情だ。
しかし、櫪の分家に一つだけ、北に顔がきく家がある。その分家が常善寺と白法院を作ったのだ。
「分かった。それでは、花岡家に助力を願うとしよう。」
「はぁ?夏輝、あそこの当主苦手じゃなかったか?確か従姉妹だって聞いた気も…。」
「そうだ。向こうが歳上だがな…。何にせよ、あちらはどうとも思ってないようだし、連絡を入れても文句は言われまいよ。」
「って…大丈夫なのかよ。本家が分家に頼み事なんて…。」
「問題無い。分家からの助力要請が山程あるんだ。たまにはこちらに力を貸しといた方が、向こうにとっても都合がいいだろう?」
そうは言ったものの、分家に弱みを握られるのはあまり良いとは言えない。それも花岡の現当主には、絶対に知られたくはない。まぁ、僕より彌生さんが嫌がるのが目に浮かぶが…。
「さて…君が借りてきた三つは?」
「それならそこにある。」
見ると、そこには布に包まれた箱らしいものが置いてあった。六宝装は皆、同じ桐箱に納められているため、開けて見なくては分からない。そのため、僕は起き上がって中を確認することにした。
「これは…天照寺の“朱雀の扇"か。」
朱に染められた艶やかな扇は、金粉と銀粉、他には宝石を磨り潰した粉などで装飾が施されたものだ。
「こちらは…和名津神社の“貘の勾玉"だな…。僕も初めて目にする…。」
大きな翡翠で作られた勾玉だが、本体に細やかな装飾が彫り込まれ、掛紐にも小さな勾玉が左右三つ付けられていた。皆、翡翠で作られているようで、それらにも装飾が彫り込まれていた。
「残るは天満大社の“青龍の衣"か…。六年前に着たことがあるが、実に良い衣だ。」
「夏輝、これ何で着たんだ?」
「ああ、奉納舞を頼まれてな。まさか、全て集めて身に付けようとは考えもしなかったが…。」
「当たり前だっつぅの!」
それもそうか。歴史的な価値も含め、全て揃えれば数億円はすると言われている“六宝装"だ。実際は後三つあったとも言われていて、それらが見つかれば金額をつけることなど出来ないと言われてもいる。
「いやぁ…保険かけておいて良かったよ。」
「そういう問題じゃないよ…夏輝さん…。」
青龍の衣を無造作に触っている僕を見て、横で颯太が蒼くなっているのが何だか面白かった。ま、これくらいでどうにかなってしまう代物ではないのだがな。
「さて、花岡の当主殿に連絡を入れますかな。」
青龍の衣をしまって颯太を安心させて後、僕がそう言って立ち上がろうした時だった。廊下の先から彌生さんの声と、もう一人、聞き覚えのある女性の声が響いてきたのだった。
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