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SNOW ROSE
花園の章
U
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ッツは、「それでは…今日だけお言葉に甘えさせて頂きます。」と言ったのであった。
 さて、レヴィン夫妻は互いに楽器を手にし、静かに音を奏で始めた。この時、珍しくエディアがリュートを担当し、ヨゼフはヴァイオリンを奏したのであった。その音色は夫妻ならではと言えるもので、楽器を持ちかえても、なんら遜色は無かった。
 二人の音楽を聴いたトビーは、あまりの美しさに食事を忘れてしまうほどであったという。
「これは…、聞き及んでいた以上だ…。」
 この呟きは誰に届くことも無かったが、皆その言葉に異存は無かったであろう。だが、それは途中で途切れてしまうのであった。ヴァイオリンとリュートの弦が、立て続けに切れてしまったのである。
「これは失礼致しました。連日の暑さに弦も歪んでしまっている故、これ以降は簡単なものでお許し下さい。」
 ヨゼフがそう言うや、今度はヨゼフがリュートを取り、エディアはトラヴェルソに持ちかえたのであった。リュートの弦は二本切れたとしても、演奏者の腕でどうにかなるが、ヴァイオリンは第一線が切れたため、高音域が不足してしまったのであった。そのため、トラヴェルソとリュートの組み合わせにかえたのである。
 この演奏もまた素晴らしいものではあったが、レヴィン夫妻は、何か嫌な感覚に捕われていた。いつもは調弦の際に気付き弦を張り直すか、または別の楽器を選択するのであるが、この時はなんら調子の悪いところは無かったのである。
「いや、お見事です!この様な名演を耳に出来るとは、何と幸福なことでしょうか!」
 夫妻の演奏が終わるや、トビーは立ち上がって拍手を贈りながら言った。ワッツもジーグも惜しみ無い拍手を贈っているが、その中で、ヨゼフは苦笑いしながら言ったのであった。
「楽器もそろそろ修復せねばなりません。お聴き苦しかったとは思いますが、機会があればいずれ再び演奏させて頂きたいと思います。」
 このヨゼフの言葉に、皆は驚かされてしまった。皆はこれでも充分な演奏であり、何が不足しているのか分からなかったのである。
 実は、後半の曲は全て三度下げて演奏されていた。そのため高音域の美しさを出し切ることが出来ず、ヨゼフには充分な演奏とは思えなかったのであった。その理由を聴いたトビーは、改めて夫妻の天賦の才に驚嘆したのであった。
 さて、時の経つのは楽しき時間ほど早いもので、既に時刻は深夜に差し掛かろうとしていた。
「これは長居をしてしまいました。私はこの辺で戻ることに致します。」
「そうだな、トビー君。お父上に宜しく伝えといてくれ。あと、これは品の代価だ。」
「確かに受け取りました。」
 トビーはジーグより代価を納めた袋を受け取ると、レヴィン夫妻へと向き直って言った。
「それではご夫妻。またいつの日にか、演奏を聴けることを楽しみにしております。この
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