別荘へ
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正面から入って、滞在中の伯爵に会うのは心が引けた。
通用口の庇にたどり着き、呼び鈴の紐を引く。
やや間があって、通用口のドアが開いた。
「これは、ソフィア嬢ではないですか。早くお入りなさい」
「え……」
手を掴まれて引っ張られるようにして中に入ってみれば、そこは資材置き場でもあるのか、壁際には薪の山、通用口のドアの列びにはトングや熊手といった作業道具が掛けられていた。
ベリルは、これまた壁際にぶら下がっているタッセル付きの紐を引くと、召使いの一人を呼び出した。
「彼女は私の客人です。身体を拭いて、それから乾いた召し物を着せて下さい。私は応接室に居ますので」
必要なことを言って応接室に向かおうとするベリルに挨拶だけでもと思ったソフィアだが、ふっと優しく微笑むベリルに言葉が出なくなる。
「挨拶は後にしましょう。そのままではソフィア嬢が風邪を引きかねません。では頼みましたよ」
その言葉を最後に、廊下の奥へと行ってしまう。
「さ、ソフィア様。伯爵様の仰る通りです。こちらへどうぞ」
無理矢理連れていかれた先は、花模様の散りばめられたタイル張りの小部屋で、そこにはお湯が張られた大きなタライと背もたれのない椅子が1脚、そして3人の女中が待ち構えていたかのように、着ていた衣服を剥ぎ取られてしまった。そして1人が剥ぎ取った衣服をまとめてどこかへ運び出そうとする。
「あっ、それは……」
「こちらで洗濯しますので、ソフィア様は身体の汚れを洗い流してくださいませ」
「は、はい………」
ソフィアはされるがままになり、髪も身体も温かい香水入りのお湯で清められると、柔らかなタオルに包まれて洗い場を後にした。
女中に囲まれて移動した先は、女性用の着替え室らしくクロークには貴族が着るドレスが見えたが、ソフィアに用意されていたのは髪の色を引き立たせるような、淡いペールブルーの、商家の娘が着るような慎ましやかなドレスであった。このような貴族の別荘には不釣り合いな衣装である。
女中達に囲まれて、ドレスを着せられると、無理矢理スツールに腰掛けさせられて、パフュームを思い切り吹き付けられて噎せてしまった。
「ごめんなさいね。でも、私達は嬉しいのよ♪ソフィア様がいらっしゃらなかったら綺麗に着飾って差し上げるなんて出来ませんでしたもの…」
髪を結い上げながら女中1人が言う。
「このドレスなんて、伯爵様の御用達の職人がたまたまいらしたから、速攻で作らせたらしいわよ。一体どんな腕をしていらっしゃるのかしらねぇ…?」
「さ、ソフィア様。これで完璧ですわね♪伯爵様がお待ちですわ。応接室に案内致します」
鏡の中のソフィアを見て満足げに頷いた後、女中の1人が手を引いてソフィアを立たせた。
応接室に向かう途中、女中が話し
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