巻ノ九十三 極意その九
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「常に戦を望んでおるわ」
「そうなのですか」
「戦でもう一度思う存分戦ってみたいわ」
采配を振ってというのだ。
「一暴れしたいわ」
「そうなのですか」
「そう思っておる、己の為にな」
まさにだ、そう思っているというのだ。
「実際にな」
「しかし父上は」
「いや、実際そう思っておる」
昌幸は己を隠すことなく述べた。
「現にな」
「ですか」
「そのわしと比べればじゃ」
「それがし達は」
「よいわ」
「そうですか」
「戦なぞないに限る」
昌幸はしみじみとした口調になっていた。
「武士はそれでも生きていけるしのう」
「治める者としてですな」
「そうじゃ、それがまことの武士じゃ」
「では戦でないと生きられぬ者は」
「それはいくさ人じゃ」
こちらになるというのだ。
「武士であってもその前にな」
「戦の中で生きて死ぬ」
「そうした者ですか」
「そうじゃ、わしはどうもな」
「いくさ人ですか」
「そちらの様じゃ」
こう我が子に話すのだった。
「だからな」
「戦がなければですか」
「血が踊らぬしじゃ」
「名を挙げることも」
「しにくい、しかし源三郎は違う」
信之、彼はというと。
「あ奴は平時でも生きておられてな」
「兄上は確かに」
「国もわし以上に治めておるわ」
今現在でというのだ。
「そうしていけばいいのじゃ」
「武士もですな」
「そうじゃ、これからはそれが出来る」
「そしてそれがしも」
「うむ、出来る筈じゃ」
平時の中で武士とし生きることがというのだ。
「武士として、治める者としてな」
「そうなのですか」
「わし以上にな、しかし戦を求めておるのは事実とも思う」
「はい、確かに」
「そうじゃな、しかしな」
その幸村であるがというのだ。
「御主も出来る、だからな」
「泰平の世ならば」
「そこで生きよ、よいな」
「それでは」
「その時になっても世を儚く思うことのなき様にな」
「そうですか、しかし」
幸村はここまで聞いてだ、父に述べた。
「それがしもです」
「名を挙げたいともか」
「思います、しかし戦でなくともですな」
「御主なら名を挙げられる」
戦以外のことでもというのだ。
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