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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第五十五話 第七次イゼルローン要塞攻防戦(その5) 
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「はっ」



宇宙暦 795年 5月 7日 18:00 宇宙艦隊総旗艦 ヘクトル  フレデリカ・グリーンヒル



第四、第六艦隊が帝国軍の後背に着いた。これで同盟軍の勝利が確定した。帝国の遠征軍は前後七万の艦隊に挟撃され、イゼルローン要塞駐留艦隊は二倍の敵、第一、第十二艦隊を相手にしている。ミューゼル中将の艦隊が来るまであと一週間はかかる。帝国軍が逆転できる可能性は無い。

帝国の遠征軍は後背の同盟軍に対抗するため正面戦力を減らし後方に回した。少しでも長く持ち堪え、包囲を突破するチャンスを窺おうと言うのだろう。だが正面の兵力を少なくした分だけ正面から押し込まれている。状況は徐々に帝国軍にとって厳しいものになっていく。

先程、帝国軍が単座戦闘艇(ワルキューレ)の大編隊を発進させた。少しでもこちらに損害を与え包囲を突破しようと考えているのだろう。こちらも単座戦闘艇(スパルタニアン)に迎撃を命じている。その所為で宇宙空間ではお互いの単座戦闘艇による激しい格闘戦が行われている。大丈夫、帝国軍がこの罠から抜け出せる可能性は無い、私は断言する。

今回の戦いで一番苦労したのが動員兵力の秘匿だった。公表では五万五千隻、第五、第十、第十二の三個艦隊、そしてシトレ元帥の直率部隊、これが内訳だ。その他に密かに動員したのが第一、第四、第六の三個艦隊。第一艦隊は海賊組織の討伐という名目で艦隊を動かし、第四、第六の両艦隊は艦隊司令官が代わったことで訓練に出ている事になっている。

第四、第六艦隊が到着すると総旗艦ヘクトルの艦橋は爆発するような喜びの声で満ち溢れた。ベレー帽が宙を飛び、其処此処でハイタッチをする姿が見られた。シトレ元帥も満面の笑みを浮かべワイドボーン准将、ヤン准将もにこやかに会話をしている。私もミハマ少佐と喜びを分かち合っていた。何と言っても五万隻の遠征軍を挟撃することが出来たのだ。

そんな中でヴァレンシュタイン准将だけが一人冷静さを保っていた。周囲の喧騒に加わることなく、戦術コンピュータとスクリーンを見比べていた。ワイドボーン准将が“これで勝った、少しは喜べ”と言ったのに対し“未だ終わっていません”とにべもなく切り捨てた。

何時しか艦橋から喧騒は去っていた。皆がヴァレンシュタイン准将の冷静さに圧倒されている。今回の作戦は准将が立案したものでその作戦が成功しつつある。全てが成功すれば帝国軍は大打撃を被るだろう、にもかかわらず准将は無表情に戦況の推移を見守っている……。どうしてそんなにも冷静でいられるのか……。この勝利を少しも喜んでいない様にも見える。やはり帝国人を殺す事に忸怩たるものが有るのだろうか。

「単座戦闘艇(ワルキューレ)が攻撃してきません。後方にすり抜けようとしています」
オペレータが困惑した様な声
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