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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第五十三話 第七次イゼルローン要塞攻防戦(その3)
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してそんな事が有るのか……」
私の言葉にゼークトの渋面がさらに酷くなった。意見を出したゼークトの部下も面目なさそうにしている。考え無しの阿呆、鬱憤晴らしで戦争をするな。

遠征軍が今日戻ってくると言うのは我々の予想だ。遠征軍から知らせが有ったわけではない。もちろん今日遠征軍が戻ってくるのはおかしな話ではない。反乱軍が遠征軍の邪魔をしなければという条件付きだが……。

「要塞司令官、卿は反乱軍の撤退が駐留艦隊を誘き出す罠ではないかと考えているのだな」
「その通りだ、ゼークト提督。駐留艦隊を引き摺り出して叩く、艦隊が無くなれば反乱軍にとってイゼルローン要塞を落とす事はさほど難しくは有るまい」

何人かの士官が頷いている、ゼークトもだ。どう見てもこの意見の方が妥当性が有る。反乱軍が遠征軍をすんなり帰すなどという事が有るはずが無い。伏撃をかけ撃破するか、或いは足止めするか、どちらかをするはずだ。となれば遠征軍が今日、此処に来るわけがない。すなわち、反乱軍の撤退は罠という事になる。

「要塞司令官、遠征軍からあった通信は反乱軍の欺瞞という事かな……」
「……そうなるのだろうが、どうもおかしい……」
「……欺瞞にしては余りにも拙いか……」
「うむ……」

私とゼークトの会話に皆が困惑の表情を見せた。ゼークトの言う通りなのだ。これが反乱軍の欺瞞工作だとしたら余りに拙い。ミューゼル中将が近づいているので時間が無いと考えているのかもしれない。しかし余りにも拙い。こんな拙い欺瞞工作に引っかかると反乱軍は考えているのだろうか……。

「どうも分からんな」
「全くだ、どうも分からん」
お互い首を傾げざるを得ない。遠征軍が戻ってきたとは思えない、しかし反乱軍の欺瞞工作にしては拙すぎる。さっぱりわからない。

もし遠征軍が戻ってきたのだとすれば放置はできない。遠征軍は五万隻強、反乱軍は七万隻。戦力では遠征軍が不利なのだ。その不利を覆すためには駐留艦隊の兵力が要る。駐留艦隊が反乱軍の後背を衝けば前後から挟撃された反乱軍を壊滅状態に追い込むことも可能だ。

「おそらくは罠だろうが、念のため索敵部隊を出そう」
「それが良いだろうな、駐留艦隊はどうする」
「要塞主砲(トール・ハンマー)の射程外で結果を待つ。罠ならば射程内に戻る、真実遠征軍が戻ったのなら反乱軍の後背を衝く」
「……分かった、十分に注意してくれ」

部下を従えゼークトが司令室を出ていく。その後ろ姿を見ながら思わず溜息を吐いた。どうにも妙な具合だ。反乱軍が何を考えているのか分からない、いやそれ以上に遠征軍がどうなっているのか分からない。その事が状況を混乱させている。

ゼークト、無茶はしないでくれよ……。卿を失えばイゼルローン要塞は孤立する。反乱軍から要塞を守り抜くのは難し
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