巻ノ九十二 時を待つ男その五
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「それでもよいな」
「どの様な修行でもです」
「耐えるか」
「いえ、楽しめますので」
「そう言うか」
「はい、ですからお気遣いは無用です」
「無論こちらも気遣うことはせぬ」
温和で知られる立花だがこの度に修行ではというのだ。
「拙者の体術の全てを授けるのだからな」
「だからですな」
「遠慮なく厳しくじゃ」
そうしてというのだ。
「鍛えるぞ」
「はい、では」
「その様にな」
「お願いします」
「さて、そしてじゃ」
「城の裏の山で、ですな」
「毎夜修行じゃ」
こう望月に言った。
「免許皆伝の時までな」
「わかり申した」
「してじゃ」
立花は今度は幸村に声をかけた、幸村もそれを察し耳で応えた。
「貴殿もじゃな」
「いつもこうしております」
「共に修行を受けておるか」
「その様に」
「貴殿もさらに強くなりたいか」
「身体だけでなく心も」
こちらもというのだ。
「是非です」
「その時の為にか」
「そう考えています」
「拙者の見立てではじゃ」
「天下はですな」
「また一つ大きな戦が起こる」
こう幸村に話した。
「そしてその時に拙者はじゃ」
「どうしてもですな」
「貴殿と共に戦えぬ」
「そうなりますな」
「貴殿の様な者と轡を並べたいが」
武士としてだ、立花はそう思うのだ。彼もまた武士であり幸村の様な者を嫌いではないからこう思うのだ。
「しかしそれは出来ぬ」
「ではやはり」
「敵同士となろう」
「そうなりますな」
「しかしじゃ」
「それでもですな」
「ここまで来たならばな、それに戦はまだじゃ」
つまり敵同士ではないからだというのだ、今は。
「教えさせてもらおう」
「ではそれがしも」
「共に修行をしようぞ」
「それでは」
「夜と言ったが朝や昼でも暇があればじゃ」
例え日が照っている間でもというのだ。
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