暁 〜小説投稿サイト〜
グランドソード〜巨剣使いの青年〜
第4章
2節―変わらぬ仲間―
交わした約束
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がとう」

 もう、私の中には“優しく笑う母”しか映らない。

「私を――」

 もう――

「――愛してくれて、ありがとう」

 ――母を私は裏切らない。

 見るも絶えない、想像を絶するほどの醜さに溺れた母の姿にノイズが走る。
 そうして現れたのは、私が良く知る…私が最も尊敬する母の姿。

 優しく微笑む彼女はそっと手を差し伸べ私の頭を撫でた。

「ごめんね、ちゃんと愛せなくて」
「ううん、私は母さんを尊敬してる」
「ごめんね、ちゃんと最後まで愛せなくて」
「こっちこそ、ごめん」

 頭をなでながら謝り続ける母だが、どちらかというと私の方が母より謝りたい。
 生きてほしいと産んでくれ、生きてほしいと育ててくれた。
 けれどその結末は最悪だったのだから。

「ちゃんと、最後まで生きられなくてごめん」

 ウィレスクラに拾われ、この世界に来て私はすぐに悟った。

 ――元の世界の“私”はもう死んでいるのだと。
 もう二度と、あの世界に戻ることは望んだとしても出来ないのだと。

「でも、深春はちゃんと生きてる」
「母…さん?」

 そんな“後悔”を打ち消すように、母は私に微笑みかけた。

「私と生きた世界は違うけれど、ちゃんと貴女は今を生きている…違うかしら?」
「…うん、そうだよ。私は生きている」

 母は「なら大丈夫よ」と言葉を続けて両手を腰に当てる。

「深春、生きなさい。辛くてもいい、悲しくてもいい、怒っていてもいい」
「――――――」

 それは、母が口癖のように私に言っていた言葉。
 その言葉に、私は何度救われ尊敬してきただろうか。

「でも笑いなさい、こんなものかって」
「…うん」

 深春は母と顔を合わせると、小指を母に向けた。

「約束するでござる。小生は生きる、生きることで…貴女に貰った恩に報いると」
「それは最高の親孝行ね」

 母と深春は互いに笑い合うと、小指を重ね合わせて強く握り合う。

 生きてほしい。
 辛くても、悲しくても、怒っても笑って生きてほしい。
 どんな困難があっても春のように暖かな笑みを浮かべてほしい。

「春のように、心を深く持ってほしい。だから私は貴女に“深春”と名付けた」
「――ありがとう…母さん」

 母は私の言葉に、優しく明るく温かい最高の笑顔で返すと母の姿は掻き消えた。

 そして、私は“精神”の『試練』をクリアする。
 例え先ほどの母の姿が『試練』が見せた幻だとしても――

 ――二度と、私は母の笑顔を忘れることは無いだろう。

 そして、その後の“心”の『試練』も余裕でクリアした深春は、完全な『申し子』として認められた。
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