暁 〜小説投稿サイト〜
グランドソード〜巨剣使いの青年〜
第4章
2節―変わらぬ仲間―
交わした約束
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「――――――」

 どうして表面上の気持ちとして区別するのか、深春には分からなかった。

「じゃあ聞くぞ深春、お前が母の瞳に憎悪があると気付いたのは何時だ」
「……え?」

 ―あれ、いつだっけ。

 強烈に頭に残っているのは、憎悪に満ちた母の瞳。
 それが何時からのものからか、全く深春の記憶の中になかった。
 記憶の中にあるのは、いつも優しい瞳をした母の顔だけ。

「あ、れ…?」
「人の気持ちっていうのは簡単に変わる、だがそれは表面上の部分だけだ」

 深春が記憶の中から必死に憎悪に満ちた母の瞳を思い出そうとしている中、ソウヤの言葉は止まらない。
 困惑しすぎて頭の中が整理できていない深春は、おとなしくソウヤの言葉を聞くことしかできなかった。

「根底にある部分は、よほどでない限り覆らない」
「こん…てい……?」

 同じ単語を繰り返す深春を、ソウヤは優しく笑って見つめる。

「なぁ深春、少しは考えてみろよ――」

 そして、ゆっくりと深春の身体をソウヤは包み込むと母親がやるように、慈愛を込めてゆっくりと頭を撫でた。

「――腹を痛めて産んだ子が、身体を売ってまで育てた子が、可愛くない母なんてどこにも居ないよ」

 考えれば、すぐわかる話だった。
 答えは単純だ、“憎悪に満ちた瞳”を母はまず行ってさえしていない。
 何故なら死ぬ直前、深春の母は狂いきっていたのだから。

 狂った人間は、もう元の人間ではなくなる。
 ただただ溢れる表面上の感情を周りに叩きつけるだけだ。
 その結果が「貴女が居なければ」という置手紙と、首吊り。

「よく思い出せ、“誰に”母がお前を憎んでいたと“言われた”?」
「――ッ!」

 虚ろだった瞳に光が差し込む。
 停止していた脳が急加速する。
 ぼんやりしていた思考が、一気にあてはまった。

 ――何故、母が憎んでいると“思い込んでいた”のかを思い出す。

 許せなかった。
 誰でもない、“偽りの言葉”を信じ切っていた自分自身に。
 あれだけ尽くしてくれた母を“裏切った”と思い込んでいた自分自身に。

「…もう、大丈夫だな」
「大丈夫でござる。小生は全てを思い出したでござるよ」

 無茶苦茶なござる口調。
 けれど、これは深春が完全復活した証であって――

「なら、後は任せるぞ」
「任せるでござるよ」

 ――ソウヤと深春は体を離すと、互いに拳をぶつけ合った。

 不意に、ソウヤの身体にノイズが走る。
 時間が来たのだと、深春はすぐに察した。

「悪い、もう時間だ。流石にこれ以上の滞在は俺の力でも無理らしい」
「気にしなくていいでござるよ、ソウヤ殿」

 消えていくソウヤを深春はしっかり見つめる
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