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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第四十六話 新人事の波紋
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兵家として優れた人物であることは分かっている。でも補給も?
「そう、嫌になるわよね、用兵も事務処理もどちらも完璧なんだから。何でも一人で出来るから何でも一人でやっちゃう。傍にいると時々落ち込むわ……」
「……」
私がどう答えて良いか分からず沈黙していると少佐は優しい笑顔を私に見せた。
「気を付けてね」
「?」
「准将は意地悪でサディストで根性悪で、とても鋭い人だから……。でも本当は誠実で優しい人なの。信頼できる人よ」
「……」
言っている意味がよく分からなかった。サディストで根性悪、誠実で優しい人……。ただ印象的だったのは少佐の笑顔がとても優しそうに見えたことだった。よく分からないまま私は頷き作業に取り掛かった。
作業中も時々ヤン准将を見た。周囲が忙しそうに働く中で准将だけが本を読んでいる。良いのだろうか? 周囲から疎まれたりしないのだろうか? 皆、何故何も言わないのだろう? 准将の事を皆無視している?
書類の確認が終わった事をミハマ少佐に告げると、少佐はヴァレンシュタイン准将に提出するようにと指示を出した。書類を持ち、ヴァレンシュタイン准将のデスクに近づく。ヤン准将は私に気付く様子もなく本を読んでいる。
「ヴァレンシュタイン准将、書類の確認をお願いします」
「分かりました、そこに置いてください」
書類を置いて席に戻ろうと踵を返した時だった。ヴァレンシュタイン准将の声が聞こえた。
「ヤン准将が気になりますか?」
驚いて振り返った。ヴァレンシュタイン准将は書類を見ている。ヤン准将が訝しげに私を見ていた。そしてヴァレンシュタイン准将が言葉を続けた。
「周囲が忙しそうに仕事をしているのにヤン准将だけが仕事をせず本を読んでいる。どういう事なのか、そう思っているのでしょう?」
「……」
ヴァレンシュタイン准将が顔を上げて私を見た。表情には笑みが有る。
「確かに忙しいですが、ヤン准将に事務処理をさせるほど私もワイドボーン准将も馬鹿じゃありません」
「……」
ヤン准将が苦笑した。その事が私を微かに苛立たせた。
「命の恩人を馬鹿にされて怒りましたか?」
「!」
「命の恩人? どういう事だ、ヴァレンシュタイン」
私達の遣り取りを聞いていたワイドボーン准将が問いかけてきた。
「簡単ですよ、グリーンヒル少尉はエル・ファシルに居た。ヤン准将は命の恩人なんです、そうでしょう?」
「そうなのか、ヤン」
「いや、そう言われても……」
ヤン准将は困惑している。やはり私の事は覚えていない、予想していたことだけれど微かに胸が痛んだ。
「今度は悲しそうですね、少尉」
「……」
悲しそうとは言う言葉とは裏腹に准将は笑顔を見せている。
“准将は意地悪でサディストで根性悪で、とても鋭い人だから
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