巻ノ九十一 消える風その八
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「あらゆる意味でな」
「ではこのままですか」
「何があろうともですか」
「九度山から出て欲しくはない」
「そう思っておられますか」
「そうじゃ、頼むからな」
切実さが言葉にも出ていた。
「ずっと、せめて天下が完全に落ち着くまではな」
「九度山からですな」
「出てもらいたくないのですな」
「そう思っておる、天下は幕府が治める様になり」
そしてというのだった。
「このままいけば天下は長く泰平になる」
「戦の世は長かったですが」
「それが遂に完全に終わり、ですな」
「そしてそのうえで長い泰平の世が来る」
「そうなりますか」
「そうなる、しかしそれが定まるまでは」
やはり九度山の方を見てだ、服部は自身の配下の者達に話した。
「あの山にいてもらいたい、泰平が定まれば」
「左衛門佐殿もですか」
「そして真田殿もですな」
「九度山から出られますな」
「あの山から」
「そうなるし後は赦されて穏やかに暮らせる」
泰平が定まればというのだ。
「だから静かにしてもらいたいが」
「それでもですか」
「密かに天下を周られ」
「何かをされていますか」
「そうじゃ、拙者にはわかる」
服部の忍としての六感ならばというのだ。
「されておるわ」
「では上様にこのことを」
「お知らせしますか」
「そうするがだからといって止められぬ」
幸村と十勇士達が密かに世に出てその動きを見て回っていることはというのだ。
「あの御仁達はな」
「ですか」
「では上様にお話しても」
「それでもですな」
「左衛門佐殿については」
「どうしようもないと」
「止めるとすれば」
服部の言葉に刃が宿った。
「拙者、そして十二神将達でな」
「相手をする」
「そうなりますか」
「左衛門佐殿と十勇士は天下の豪傑じゃ」
十一人全員がというのだ。
「父君である真田殿もな」
「ご自身の武勇もですな」
「武田家においても知られていました」
「智勇兼備の猛者であると」
「戦の場でもどれだけ強かったか」
「だからじゃ」
その時はというのだ。
「我等もそれだけのものを出さねばならん」
「そこまでとは」
「では、ですか」
「上様にお話して」
「そしてそのうえで」
「そうされますか」
「どうしてもというのならな」
服部の言葉は厳しいものだった。
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