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無精髭
第八章
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「この通りだ」
「顎ツルツルだな」
「口元もな」
「毎日剃ってるんだな」
「剃り跡もわかるだろ」
「青いな」
 そこはというのだ。
「いい具合にな」
「これが俺の決断だ」
「何でも従妹の娘と付き合ってるんだって?」
「その話聞いたか」
「同居はじめたんだろ」
「向こうが転職で転がり込んできてな」
「それが縁でだな」
 智和も事情に納得しつつ言う、そうして肴の冷奴あっさりしたそれを食べつつジョッキのビールを飲みながら言った。
「付き合ってるか」
「何かこのままだとな」
「結婚か?その娘と」
「従兄妹同士でも出来るだろ」
「ああ、兄妹とかじゃアウトだけれどな」
「それじゃあだな」
「ああ、そうなるかもな」
 実際にというのだ。
「このままな」
「そうか、それはいいな」
「ああ、それでな」
「髭はか」
「あったらもてるんだろ」
 悠一の場合はだ、無精髭を生やしているとだ。
「それだったらもうもてるとな」
「かえって厄介なことになるな」
「付き合ってる娘がいたらな」 
 悠一は今も焼酎を飲んでいる、そうしつつ自分の肴の枝豆も楽しんでいる。
「ややこしいことになるからな」
「だからか」
「生やさない」
 髭、それをというのだ。
「そうする」
「そう決めたんだな」
「それにあいつは俺の性格や髭を生やしていない外見がいいっていうからな」
「髭よりもか」
「ならそれでいい」
「性格を見てくれたらか」
「そうだ、だからな」
 悠一は微笑んでだ、智和に言った。
「俺は髭を生やさない」
「そう決めたか」
「これからはな」
「わかった、じゃあ式の時はな」
「呼べっていうんだな」
「俺も二人で言ってやる」
「その沙織ちゃんと上手くいってるんだな」 
 悠一は少し笑って智和に尋ねた。
「御前も」
「ああ、これでもな」
「それは何よりだな」
「今度入籍するからな」
「何だ、俺より先か」
「驚いたか」
「実際にな、ストーカーで捕まるって思っていたからな」
「そんなことするか」
 智和も笑ってそれは否定した。
「俺はこれでも真面目なんだよ」
「セクハラとかもしないか」
「誰にもしないさ」
 それこそどんな女性にもというのだ。
「俺は紳士なんだよ」
「変態紳士か」
「違う、正統派の紳士だ」
 上におかしな桂冠詞のつかない、というのだ。
「れっきとしたな」
「少なくとも御前の中ではか」
「沙織ちゃんもそう言ってる、とにかく式になったら呼べよ」
「ああ、その時はな」
「宜しく頼むぞ」
「わかってるさ」
「じゃあ御前の未来に乾杯だ」
 智和は赤い笑った顔でこうも言った。
「髭のない御前のな」
「悪いな」
「ははは、それは言わない方がいいな」

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