第二章
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「言語道断だ」
「本はですね」
「如何なる本もそうしてはならない」
「自由に出版すべきですか」
「そして自由に読むべきだ、出版することも読むことも自由でなければならない」
大田は強く言っていた、織部も彼のその言葉を深く心に刻んでいた。彼は学生時代に民主主義は絶対のもので自由は守られなければならず焚書は始皇帝の暴君としての証の一つであり民主主義の完全な敵だと確信していた。
だから二・二六事件以降の世相は好きではなかった、だが戦争についてはだ。彼は八条海運に就職していたがそこで同僚達に言っていた。
「勝たないとな」
「全くだ、この戦争の大義は日本にある」
「亜細亜の曙となる戦いだ」
「日本の誇りを胸にして行う戦いだ」
「勝つ戦いだ」
同僚達も口々に言う、確かに彼は特高のやり方は好きではなかったが。
戦争は支持していた、追い詰められながらも誇りを失わず大東亜共栄圏を掲げ戦う日本にこそ大義があると思っていた。
だからこそ敗戦の報告を出征していた外地、上海で聞いた時は落胆した。それで兵営仲間達と共に泣いた。だが内地に帰ってだ。
もう自由が戻っていて民主主義の元日本が蘇ると聞いてだった。彼はそのことについては喜んだ。敗戦のことは辛くとも。
それで喜んでいた、市井にはものはなくかなり辛い状況だった。その中で様々な本が出ていた、
「三号でか」
「はい、潰れるからです」
本屋の親父が店でなけなしの金で本を買おうとした織部に答えた。彼は仕事は八条海運に戻ることが決まっていた。あくまで出征に過ぎなかったからだ。ついでに言うと家族も八条海運本社がある神戸で妻も子供達も健在だった。疎開していたことが幸いした。
その彼にだ、店主は昨今の書籍事情を話していった。
「カストリ雑誌と呼ばれてます」
「品のない名前だな」
「そもそもカストリってのは」
「ああ、知ってるよ」
この言葉の意味はとだ、織部もすぐに答えられた。
「三合飲んだら死ぬ酒だね」
「タチの悪い酒でして」
「闇市に出回ってるね」
「中に色々混ぜてるんですよ」
そうした酒だというのだ、そのカストリは。
「メチレンだの何だの」
「あんなの飲んだらね」
「本当に三合で、ですね」
「死ぬよ」
「三合と三号が同じ呼び名で」
「三号で潰れるからかい」
「だからカストリ雑誌って呼ばれてるんですよ」
店主は綾部にこう話した。
「そうした事情で」
「成程ね」
「まあ紙の質も」
「酷いね」
そのカストリ雑誌を手にしてだ、織部はまた言った。
「これは」
「何しろものがないんで」
「出すだけでもか」
「ましってことで」
「そういうことか」
「はい、あと漫画もあります」
こちらもあるというのだ。
「読まれますか」
「ああ、
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