第六章
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「ですから」
「厄介だな」
「山の中でも熊や蝮と同じだけ厄介です」
「そうなのか」
「ですからお気をつけて」
「わかった、村にも時々来て悪さをするしな」
そしてその悪さの一つが今回の件だったのだ。
「土蔵の窓には囲いをした」
「それは何よりで」
「うむ、二度と盗まれない様にする」
庄屋は強い声で言った。
「それが第一だ」
「ですな、前に用意しておけば憂いなしです」
「全くだ、しかし誰がやったのか教えてくれたのは有り難かった」
庄屋はいつもの調子の平四郎に話していった。
「礼をしたいが」
「そんなのは別に」
「いや、むしろ遅れてだ」
それでとだ、庄屋は平四郎に謝りもした。
「悪かった」
「そんなの気にしてないですから」
「だからいいというのか」
「食うものがありますから」
だからとだ、平四郎は平然として返した。
「ですから」
「いいというのか」
「銭か何かですよね」
礼はというのだ。
「それは」
「そのつもりだが」
「そんなのいいですから」
「だからそういう訳にもいかぬ」
「どうしてもですか」
「わしからの気持ちだ、取ってくれ」
庄屋も強く言う。
「是非な」
「銭を」
「そうじゃ、御主の親父さんやお袋さんの為にもな」
「おっとう、おっかあの」
「そうしてくれ、どうしても嫌なら」
それならともだ、庄屋はこうも言った。
「女房を世話してやるぞ」
「じゃあそれなら」
「うむ、ではな」
こうしてだ、庄屋は平四郎への礼として彼に女房の世話をした。そしてそのうえで掛け軸のことをあらためて喜び平四郎も幸せになった。
こうした話が残っているが多くは平四郎が盗んだと間違えられて打ち首となりその怨念が虫となり祟りを為したとされている。どちらの話が正しいかは知らないがこうした話も残っている、面白い話であると思いここに書き残しておく。一人でも多くの人がこの話を知ってくれれば有り難い。
土蔵の宝 完
2016・12・18
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