第五章
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「言われてみれば妙だ」
「はい、まさにです」
「あの糞がだな」
「猿がここに入って来ていた証です」
「そして猿共がか」
「盗んでいったのです」
「掛け軸をか」
「そうでしょう、ただ」
平四郎はここまでは次々に言っていった、しかし。
言葉の調子を急に落としてだ、庄屋に言った。
「その猿が何処の猿かは」
「わからんか」
「はい、この辺りの猿もあちこちにいますので」
だからだというのだ。
「どの山の何処にいる猿か」
「わからんか」
「どうにも」
「でjは掛け軸自体が何処に行ったかまではか」
「わかりませぬ」
「やれやれだな、それは」
庄屋も肝心のことがわからないと言われて憮然となった、それではどうしようもないからだ。彼にとっては。
「誰がやったのかわかってもな」
「庄屋さんにとっては」
「全くだ」
こう平四郎に言う。
「残念だ」
「そうですな、庄屋さんにとっては」
「そうだ、後は神仏に頼むか」
「掛け軸が戻ることを」
「そうするしかない」
猿が盗んだことはわかっても何処の猿かわからないならというのだ。
「こうなってはな」
「そうですか」
「そうしよう」
こうしてだった、庄屋は村の寺にも神社にも女房や子供、親兄弟まで連れてそうして掛け軸が戻る様に祈った。そうして自分達も暇な時に探していると。
屋敷の軒下にあった、それで庄屋も喜び土蔵の窓に木の十字の囲いを入れてそれで二度と猿が入らない様にした。
その話を聞いてだ、平四郎は自分にこのことを話した庄屋に言った。
「猿は行ける場所が楽しいなら何処でも行きますからな」
「土蔵の中でも軒下でもか」
「はい、何処にもです」
それこそというのだ。
「行きますので」
「一旦土蔵の中に入って掛け軸を盗んでか」
「軒下にも入ったのでしょうな」
「そうなのか」
「はい、そうかと」
「猿は厄介だな」
「悪戯好きで食い意地が張って結構暴れますしな」
平四郎は猿の性質についても話した。
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