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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第四十三話 帝国領侵攻
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ても誰も口を利かなかった。トリューニヒトは無表情に黙ってグラスを口にしている。レベロは沈鬱な表情だ、そしてシトレは目を閉じて腕を組んでいる。俺は卵サンドを口に入れて水を飲んだ。喋ると腹が減る。

この三人は俺が話している間一言も喋らなかった。似た様な事を考えたことが有るからだろう。シトレとレベロは分かる。この二人が軍事、財政の面から帝国領侵攻について話し合ったとしてもおかしくない。その中で似たような結論を出したとみて良い。

だが問題はトリューニヒトだ。イケイケドンドンの主戦論者が黙って聞いている。怒るそぶりもない。どう考える? 所詮主戦論などトリューニヒトにとっては票集めの一手段という事か……。

「帝国人の君から見ても同盟の勝ち目は低いか……。となるとイゼルローン要塞を奪取して防衛体制を整えるしかないな」
「そんな簡単に落ちる要塞ではないぞ、トリューニヒト」
「しかしやらなければ効率が悪い。軍事費を抑えたいのだろう、レベロ」
「……」

レベロが顔を顰めた。しかし問題はトリューニヒトだ、今何と言った? 軍事費を抑えたい? 主戦論者が軍事費の削減を考える?
「失礼ですが、小官はイゼルローン要塞攻略には反対です」
「何故だね」
分からないのかね、トリューニヒト君。仕方がない、君のために謎解きをしてあげよう。俺が原作知識を持っている事に感謝したまえ。

「イゼルローンを取れば同盟市民は必ず帝国領侵攻を大声で叫びますよ。それを抑えられますか?」
「……」
そんな怖い顔で俺を睨むなよ、レベロ。トリューニヒトとシトレを見習え、奴らにはまだ余裕が有るぞ。根性が悪いだけかもしれんが。

「まず無理ですね。これまで百五十年間、一方的に攻め込まれていたんです。攻め込むことが出来るようになった時、同盟市民が最初に考えるのはようやくこれで仕返しができる、今度はこっちの番だ、そんなところです。間違ってもイゼルローン要塞で敵を待ち受けようなどとは考えません」
「……」

「トリューニヒト委員長、主戦論者の貴方に彼らを抑える事が出来ますか? 裏切り者と呼ばれるでしょうね。もっともどうやら既に裏切っているようですが……」

俺の目の前で苦笑するトリューニヒトが見えた。どうやら図星らしい。どんな言い訳をするのやらだな。俺はにっこり笑うとハムサンドを一つ口に運んだ。もう十一時だ、早く結論を出して話を終わらせよう。



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