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九点差逆転
第六章
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 そして千佳はだ、苦い顔のままガブ飲みしていた。
 そうしてだ、こう言ったのだった。
「まったく、今日はしてやられたわ」
「いやあ、まさかだったよ」
「いつもはこうして勝つ側なのに」
 千佳は炭酸もものともせずコーラをどんどん飲みながら言った。
「何で今日は」
「だから今年の阪神は違うんだよ」
「強いっていうのね」
「今日の試合の通りな」
「阪神にああした負け方するなんて」
 言いながらまたコーラを飲んだ。
「奇跡みたいな負け方だったわ」
「奇跡そのものの勝ち方だったな」
「お兄ちゃんから見たらね」
「いやあ、よかったよかった」
 寿は大学生が居酒屋で飲む様な勢いでコーラを飲みつつ話した。
「今日の勝利は大きいな」
「このまま優勝だっていうのね」
「ああ、絶対にな」
「九月までにはね」
 千佳は目をだ、ここでギロッとさせて兄に返した、
「こっちが首位に立ってるからね」
「言ったな、それはこっちの台詞だ」
「ずっと首位だっていうのね」
「ああ、負けてたまるか」
「それはこっちの台詞よ」
 兄妹で同じ言葉を言い合う。
「うちが粘りのチームってこと忘れないでね」
「こっちは奇跡のチームだからな」
「奇跡に粘りが勝つっていうのね」
「そうさ、阪神は強いからな」 
 今年の阪神はというのだ。
「見ていろよ」
「そちらこそね、まあね」 
 千佳はコーラを飲む手と口を一旦止めてだ、いささか不機嫌さをましにさせてそのうえで返した。
「今日のところは負けを認めてあげるわ」
「そうか」
「よくやったわね、阪神も」
「そう言ってくれるか」
「ええ、まあ巨人にやられていたら」
 新底巨人が嫌いな身としての言葉だった。
「こんなものじゃなかったわ」
「巨人じゃなかったらいいか」
「じゃあ若し巨人に九点差負けたらどうなの?」 
 阪神が甲子園でそうなればというのだ。
「お兄ちゃん死ぬ程怒ってるでしょ」
「そんな試合考えたくもないよ」
 寿はそうした試合を仮定で聞いただけでこめかみをひくひくとさせていた、彼はむしろ胃妹のそれ以上に巨人が嫌いなのだ。
「二度と言わないでくれるかな」
「こっちも言わないわよ、わかるでしょ」
「うん、飼ったら別だけれどね」
「だからまあいいわ」
 確かに負けたがというのだ。
「一敗は一敗よ、それにね」
「取り返すっていうんだね」
「倍返しにしてね、十月が楽しみね」
「クライマックスでも勝ってやるからな」
「クライマックス阪神負け越してるでしょ」
「そんなのよくチェックしてるな」
「当然でしょ、とにかくこれで終わりじゃないからね」
 まだ五月だ、千佳は気を取り直して兄に向かい合って宣言した。
「見ていなさいよ」
「ああ、望むところだ」

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