§1 魔王になった日
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崩壊に巻き込まれれば間違いなく生きて帰れない。だが、今の黎斗に動くだけの力など無い。目を開くことすら精一杯なのだ。徐々に体が重くなっていく。これが神の武器を使い、神を殺したことによる代償。
「……」
もはや物言わぬ躯とかした彼は、生存者が存在せずただただ崩壊を待つ空間で崩落に巻き込まれ落下していく。世界の果てで発生した異常事態、それを知る存在など極僅かな例外を除けば、世界のどこにも存在しない。まして彼の直下に黒い扉が出現したことなど、一体誰がわかろうか。
「っと、ギリギリね」
突如現れた蠱惑なる女神によって、黎斗の落下が一端止まる。否、空中で浮遊する形となった彼だが、それでも黒い扉との距離は近づく。黒く輝く扉が、まるで黎斗を吸い込まんとするが如く、彼のみを圧倒的な吸引力で引き寄せているのだ。
「忌まわしき魔女め。ここで姿を現すか」
もはや肉体は消滅し、圧倒的だった存在感すら薄れゆく彼女の声が木霊する。
「お久しぶりでございます。申し訳ありませんが時間がありませんわ。さぁ、祝福と憎悪をこの子に与えてくださいませ!八人目の神殺しとなる運命を得たこの子に、聖なる言霊を授けて頂戴!!」
本当は会話の一つと洒落込みたかったのだがそんな余裕はどこにもない。黒い扉の黎斗を引き寄せる力が、想像以上に強い。誰かはわからないが下手な神ではここまでの召喚を行使できまい。それほどの、力。パンドラですら両者が近づく速度を緩めることが精一杯なのだ。事は一刻を争う。
「……くくく。あははははははは!!!」
もはや残滓も消えゆく美女が、告げる。
「よかろう。慢心の末の敗北とはいえ、負けは負けだ!! 認めたくないが認めてやろう。喜べ水羽黎斗よ、貴様に最初に祝福を与えるのは、天地開闢の最後を司る国土創世の主にして生命を生み出す死者の女王だ!! 神殺しの魔王よ、壮健であれ。貴様を殺すのは妾をおいて他に無し!!」
その言葉と共に、彼女の気配は完全に消滅した。
「ふふっ、そんなに負けたの悔しかったのかしらね」
パンドラが苦笑するのと同時に、黎斗の姿が黒い扉の中に消える。
「ギリギリだったわね。さて、転移先は……あら? わから、ない……?」
パンドラの力をもってしても分からない場所へ飛ばされたとでもいうのだろうか。だとしたら、何処へ。
「……まぁいいわ。アタシとダンナの息子ならなんとかやるでしょ。いずれどこかで会いましょう」
その言葉を残してパンドラはこの空間から消え去った。彼女が居なくなるのを待っていたかのように、空間の崩落が激化していく。全てを無に帰さんとばかりに、あらゆる存在を呑み込み自壊を起こしていく―――
―――時刻は多少遡る
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