§1 魔王になった日
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機会をやろう。妾と直接殺し合いをする、権利だ」
無理だ。不可能に決まっている。絶望に打ちひしがれる黎斗に対し、面白そうに彼女は笑う。
「ふふふ。ホレ、無様に逃げ回って妾を愉しませた褒美だ。これもやろう。流石に勝機が零では可哀想だからのう。まぁ零から無量大数に一つに変わっただけだろうが」
冷淡に突き放す死神。絶対的な死を前に、今までの人生が走馬灯のように脳裏をよぎる。優しかった家族。助け合ってきた友達。むかつくアイツも、頼りになったソイツも。全て、もう居ない。喪えるモノはもはや己の命のみ。後はもう、残っていない。全てこの数時間で、無くなった。
「上等……!! ゼロじゃないなら、なんとかなる!!」
嘘だ。ヤケクソだ。勝ち目が皆無であることくらい、黎斗にだってわかっている。屈強な戦士ですら神殺しなど不可能だろう。病弱少年如きに出来る筈もない。だけど。
「みんなの、仇だ……!!」
どうせ助からないのなら、刺し違えてでも、やってやる。そんな決意で剣を握り締めた。持っているだけで手が震える。剣の重みは、一介の学生たる黎斗程度の腕力では自在に振るうことなど叶わない。ましてこの剣は、黎斗を主と認めていない。
「うおおおおおおおおお!!!」
握り締めて駆け出す。美女は余裕の笑みでこちらを見ている。あと数メートル。
「ああああああああ!!!」
彼我距離、1メートルを切る。
「でやあああああああああ!!!」
思いっきり、振り下ろす。完璧なタイミングで白羽取りをして、黎斗の絶望する表情を見ようとした彼女は―――
「何ッ!?」
「おりゃあ!!」
「やれ! 黎斗!!」
「「「「「おおおお!!!」」」」」
背後から身体を掴むナニカタチに一瞬、動揺してしまう。その気になれば即吹き飛ばせる非力な力による拘束。死者たちの最後の悪あがき。ここに来て、冥界と現世を繋げていることが裏目に出た。もう無いと思っていたところからの反撃に、美女は確かに動揺した。刹那に満たない僅かな時間。しかし、その動揺は―――文字通り命取りとなる。
「がはぁ!!」
意識が黎斗から外れた瞬間、決死の剣が彼女を唐竹割で斬り下ろした。
「こんな結末認めん、認めんぞ!!」
「あああああ!!」
眼前の物体が何か喋っているが、黎斗に聞き取る余裕などない。振り下ろした勢いのまま、一回転。渾身の力を込めて逆袈裟で切り上げる。
「ぐぁああああ!!?」
一際大きな絶叫と共に、彼女が崩れ落ちていく。周囲の空間が崩壊していく。冥界と現世の特異点であった彼女が消滅することで、二つの世界が分離しようとしているのだ。
「あうっ……」
このままこの場所にとどまるのは拙い。
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