巻ノ九十 風魔小太郎その十
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「泰平だとな、それならな」
「徳川殿の世で、ですな」
「よいであろう」
「徳川家については」
「何も思うことはない」
一切という返事だった。
「別にな」
「そうなのですか」
「そもそもじゃ」
「北条家と徳川家はですな」
「戦もしたが縁戚であった」
家康の娘が氏直の妻であったからだ。
「しかも最後まで我が主家のことを気遣って下さった」
「だからですな」
「嫌う理由はない」
そして憎む理由もというのだ。
「だからな」
「幕府にはですな」
「我等は何もせぬ」
「では江戸で暴れていたのは」
「大方何処かのならず者達であろう」
自分達ではないとだ、風魔は幸村に述べた。
「忍かどうかは知らぬがな」
「そうした者達ですか」
「おそらくな」
「左様ですか」
「まあそのうち捕まるわ」
これが風魔の見立てだった。
「既に結構捕まっておるそうだしな」
「ではその者達は」
「何でもない」
風魔にとってはというのだ。
「わしの名も風魔の名を騙るのもな」
「それもですか」
「何でもないわ」
そうしたことをしてもというのだ。
「むしろわしの偽物が獄門にででもなればじゃ」
「それで風魔小太郎が死んだと」
「そうなるからじゃ」
「よいのですな」
「この箱根で静かに過ごせる」
そうなるというのだ。
「だからよい」
「左様ですか」
「うむ、しかし貴殿等は」
「はい、このまま何もなければよし」
「そのまま九度山で過ごされるか」
「そうします」
こう考えているというのだ。
「許しが出るやも知れませぬが」
「まああと十年少しか」
「それ位でござるか」
「貴殿等の許しが出るならな」
それ位だというのだ。
「そうなるであろうな」
「十年少しですか」
「宇喜多殿は八丈島に流されたが」
宇喜多秀家、五大老の一人であった彼もというのだ。
「まああと十年少しか」
「それ位で、ですか」
「あの方も」
「出されるであろう」
その八丈島からというのだ。
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