第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
最後の物語:幸せは夢の彼方に
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ない。
九死に一生を得た自分の代わりに、誰かの終止符を記憶に保管しようと、ピニオラは思い立った。
それから、呆れるほど精力的に活動した。寝る間を惜しんだこともあった。二週間は飲まず食わずで活動したこともあった。いつしか《笑う棺桶》にスカウトされ、彼等も題材になるだろうかと軽い気持ちで胸元に刻印を受け入れた。
これほどまでに狂った本性を持ちながら、ピニオラはみことに出会った。
彼女からすれば、複数人の群像劇でなければ題材には為り得ない。故にみことは孤独である時点で興味の外になる筈だった。用済みになって、些細な縁も袖についたゴミのようにはたき落として終わりになるべきであったのに。
そんな行きずりの少女に、気が付くと情が沸いていた。
いや、ピニオラの心にも、情を沸かせるだけの余地があったのだと思い知らされた。
でも、これまで真っ当な人間でなかったこともあって、正しい接し方も愛し方も分からない。不器用なまま、見様見真似なまま、それでもこれまでの生き方では得られないくらいに温かな日々だった。こんなにも歪んだ自分を必要としてくれた親友に少しでも尽くせるように、人らしく振る舞いながら、自分には縁のない時間を生きることができた。色褪せたこれまでの人生の中で、みことと共に過ごせた数日間だけは、かけがえのない思い出に彩られたものだと確信できる。
「――――だから、ありがとうございました。………そして、嫌なお話を聞かせてしまって、ごめんなさい」
独白に、返す声はない。だから、言葉にだけは終わりの兆しを添える。
静かな寝息が優しく耳に届き、朝方の涼やかな風がピニオラを撫でた。
やがて歩みは止まり、ピニオラは目の前にそびえる屋根に円と十字架の組み合わさったアンクを掲げる建物を見る。
第一層の東七区。そこの教会には、まだ年端もいかないままSAOにログインしてしまった子供を預かる女性プレイヤーがいると情報を得ていた。みことがもし、共に暮らすのを拒んだとき、そこに預ける予定であった為だ。
「さぁて、と。みことさんはよく眠りますねぇ。大きくなったら、きっとわたしなんかよりず〜っとナイスバディになっちゃいますねぇ〜………そうなると、ちょっとショックですけど………」
賭けに勝てば、みことと共に暮らす。そして、自身の全てを以てみことを守る。
賭けに負ければ、みことの下から立ち去る。自分なりの方法で、自分を戒める。
その賭けの勝敗の判断基準は、これまでの道中でみことが目を覚ますか否か。
みことの声を聴いてしまえば、きっとピニオラは自身の中に在る決意を容易く折り捨ててしま
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