第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
最後の物語:幸せは夢の彼方に
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遡るほどに救いのない、根底から歪んでしまった哀れな概念だった。
「でも、それでも《寂しい》という思いだけは消えなくて、わたしのお友達は本になりました。絵本に小説、漫画もいっぱい読みました。その中の世界に住んでる人達は、カッコよくて優しくて、こんな人ばかりの場所があればいいのにってずっと憧れて、行き着いた先がここだったんです」
それは、ある意味で救いだったと、ピニオラは語る。
傷みなく、眠っているうちにふとした拍子に死ねるなら、こんな素晴らしい終わり方は他にないと。
「ある日、ちょうど今くらいの時間でしょうか。ある男の人に誘われたんです。『一緒に攻略しないか』って」
ピニオラは、その申し出に深く考えることなく承諾した。
攻略とは即ち、圏外に出て戦うということだ。呆けて終焉を待つよりは、自分から終わりに行くというのも悪くないと、その程度の認識で男性プレイヤーのPT申請を受理した。
しかし、結果は意外にも順調に進んでしまった。レベリングの途中で命を落とすのではと思っていたピニオラであったが、不覚にもすぐに死ぬということはなかったし、それ以前に誰かと接するという行為に然程の忌避感を覚えなかったのである。
なにしろここは現実であって、自身の生まれ育った無味乾燥な世界ではない。
剣を振るい、仲間と支え合い、なけなしの命を賭けて戦う。視線の文字の羅列やコマ割の先に広がっていた、あの《追い求めていた世界》そのものだったのだから。
だが、夢は呆気なく醒めてしまったと、ピニオラは続ける。
その瞳には、今でこそ抱ける色彩が宿っていた。当時を振り返って思い至る感情が、それまでのピニオラとは異なるものだと示す証左だろうか。
「また、ある日のことです。私達は仲間を増やして、レベルも順調に上がって、それなりのプレイヤー集団に育っていきました。まだギルド設立の出来ない頃でしたけど、このまま行けば第一層ボス攻略にだって名乗りをあげていたかも知れないくらいには強くなっていたんです。だからですかね、そういう時に限って、人は欲が出ちゃうものなんです」
その時は、不意に訪れた。
ピニオラ達は当時、《トールバーナ》周辺の森林エリアを中心にレベリングと装備更新の為の資金調達を目的とした狩りを行っていた。全体のレベル向上も急務とされ、急ピッチの戦闘が連日続いたのだが、それでも当時最高のレベルを誇るプレイヤーとの差は歴然としていた。別に、強さを比較しなければそれで済んでいたのだが、そのPTのリーダー格だったプレイヤーは相応に負けず嫌いだった。上を観たらキリがないとピニオラからもそれなりに進言したが、とうとう聞き入れられることはなかったのである。
そんな強行軍が続く最中
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