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ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第2章 魔女のオペレッタ  2024/08 
最後の物語:幸せは夢の彼方に
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 図らずも、言葉にせずともその事を教えてくれた親友は疲弊からか、眠ったまま起きようとはしない。彼女の無垢な在り方が、ピニオラには遠すぎた。こうして触れ合うことさえ何かの間違いで、許されることではないのではとも思えてしまうが、きっとまだ幼いみことには、ピニオラの邪悪さは理解されないだろう。隔てられた認識を幸いに、これまでのように生活することも吝かではない。そうしてしまいたいという誘惑がピニオラに囁きかけてくる。これまでのように、その親友も騙せばいいと。知らないなら、教えなければいいと。隠し通せと。これまでの手練手管が、ピニオラに最良の手段を提示して絶えることがない。むしろ、そんな自分の浅ましさに乾いた嘲笑を零す。


「なるほどなるほど〜、わたしってば悪者としてサマになってますねぇ」


 自分は誘惑に耐えられるか、疑わしい。
 ならば、一つだけ些細な賭けを落し処に、ピニオラは自らの行く末を占うことにした。
 自分の弱い部分を利用した絶対遵守(どうなっても恨みっこなし)のルールを取り決め、心の中で決心する。


「じゃあ、れっつすた〜と〜」


 それなりに重要な局面に立たされていながら、ピニオラはあっけらかんとした様子で主街区の正門を通り抜ける。視界に【Inner Area】のシステムアナウンスが表示され、PoHに首を絞められた際に発生したダメージやみことに発生していた状態異常が一斉に回復される。抱きかかえたままのみことは、目を覚ます様子もない。あどけない寝息に、自分の胸に寄せられる幼い顔に、ピニオラも表情を僅かに弛ませた。この時間がいつまでも続けばいいという願いが溢れ出し、それを成就させる手段が脳裏を過るが、それらを振り払うように歩を進めた。
 先ずは正門から、中央の転移門広場まで。みことを無為に起こさないように静かな足取りを心掛けて、薄く夜が空ける報せのような紫の空に溶け込むようにゆったりと進む。


「ここに来るのってリンさんと会って以来ですかぁ。いろいろ大変でしたから、なんだかずっとずっと昔のことのようですねぇ〜」


 くすくす笑いながら語るピニオラに返ってくるのは、穏やかな寝息のみ。
 その後も、とりとめのない、つまらないような、話題にすることさえ憚られる些細なものまでピニオラは眠るみことに語り掛ける。向けられる返答らしきものといえば寝息と、稀に妙な薄ら笑い。それでも堪らなく愛おしいので良しとすることにした。
 求めた平穏が、再び息を吹き返したように錯覚してしまいそうになる自分を諌めて、感慨深げに広場の石畳を踏む。
 SAO正式サービス開始時のチュートリアルで約一万人を収容しただけあって、早朝故に人の気配のなさも相俟って広大の一言に尽きる。
 転移門を備えた中央の時計塔、それを取り囲むよう
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