巻ノ八十八 村上武吉その十一
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「そうします」
「それでは」
「これより海に戻り」
「魚を獲ろう、しかし魚でなくともな」
「他のものでもですな」
「海で毒のないものならな」
笑ってだ、村上は幸村に話した。
「獲って食おう」
「それでは」
「これよりな」
三人で海に戻った、そしてすぐにだった。
海の中で魚等を獲ってだ、戻ってだった。
鱗を落としてだ、その場でだった。村上は包丁を出してその魚や貝達を切ってそうしてだった。二人に出して言った。
「さあ、食おうぞ」
「刺身ですか」
「それにしたのですか」
「やはり獲れたての海の魚はな」
近くにあった板の上にその切ったものを乗せての言葉だった。
「これに限るわ」
「はい、確かに」
幸村が答えた。
「それは」
「刺身じゃな」
「新鮮な海の幸は」
「それでこうした」
「焼き魚ではなく」
「そうしようとも思ったが」
それでもというのだ。
「こちらにした」
「そうなのですか」
「生憎醤油はないがのう」
「いや、そこまでお気遣いは」
「よいか」
「お気遣いは無用です」
「それがしもです」
幸村だけでなく海野も言う。
「修行に来ておりますし」
「そうしたことは」
「ははは、そうしたところは相変わらずだのう」
村上は謙遜を見せる二人に笑って述べた。
「しかし食われよ」
「その刺身を」
「是非共」
「食うのも修行のうちじゃ」
だからだというのだ。
「存分にな」
「それでは刺身の方は」
「お言葉に甘えて」
「その様にな、それでじゃが」
「それで?」
「それでといいますと」
「うむ、これから確かに海野殿にわしの水術の全てを授けるが」
村上は海野を見つつ幸村に言った。
「そして武士の道、術を極めるだけか」
「といいますと」
「備えておられるな」
鋭い目でだ、幸村に問うた。
「やはり」
「それは」
「正直茶々殿はどうにもならぬ」
村上が言ったのはこの女のことだった。
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