巻ノ八十八 村上武吉その九
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「だからな」
「はい、それでは」
「鮫が出ようとも」
「倒して先に進むぞ」
荒海の中で話すのだった。
そして実際にだ、途中鮫も出たが。
海野は水の中で気を放ちそれで鮫を退けた、村上は彼のその闘いぶりを見て見事といった顔でこう言った。
「言うだけはある」
「気を使えれば」
海野は村上に答えた。
「これだけのことが出来ます」
「気をそこまで使えるだけでもな」
まさにとだ、村上はその海野に話した。
「相当じゃ」
「そうか」
「うむ、全く以てな」
まさにというのだ。
「よいことじゃ、しかしな」
「これからの修行はですな」
「これ位が出来ねばじゃ」
海の中で気を放って鮫を退けられる位でないと、というのだ。
「話にならん」
「それだけのものなのですな」
「そうじゃ」
「だからこそ」
「これ位ではな」
「満足していてはですか」
「わしはここで引き返しておった」
修行をすることを止めてというのだ。
「そうしておったわ」
「そうでしたか」
「だからな」
「はい、これより」
「三田尻に向かう」
「そしてその三田尻で」
「本格的な修行をしてな」
そのうえでというのだ。
「わしの水術の全てを授ける」
「そうして頂けますか」
「是非な、ここで慢心せぬその心やはりじゃ」
「やはりとは」
「真田殿の家臣だけあるわ」
「それがし慢心は慎んでおります」
幸村が答えた、彼も荒波の中を何なく進んでいる。やはりその水術は相当なものである。海野程ではないにしても。
「それが隙を呼び立ち止まることにもなるので」
「だからか」
「はい、ですから」
それでというのだ。
「家臣達にもいつも言っております」
「慢心はせぬ様に」
「左様です」
「貴殿らしいな、そうして先に先に進むか」
「武士の道を」
「そういうことか」
「そしてやがては」
「武士の道の果て、極みをか」
「見れられればと思っていますが」
ここでだ、こうも言った幸村だった。
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