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真田十勇士
巻ノ八十八 村上武吉その八

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「ただ三田尻に行くのではない」
「といいますと」
「ここから泳いで行く」
 そうするというのだ。
「海に出てな」
「そうしてですか」
「そうじゃ、今海は荒いが」 
「だからこそ」
「そうじゃ、荒海を泳いでこそじゃ」
 まさにというのだ。
「わしの水術が備わる」
「それだけの泳ぎの腕ですな」
「それがあれば」
「そうじゃ、ではここから三田尻まで泳いで行こうぞ」
 こう言ってだ、そしてだった。
 村上と幸村達は屋敷の者達に三田尻に戻ると告げてから海に出た、三人共褌一枚であり服は折り畳み頭の上に置いている。そのうえでだった。
 村上は二人にだ、笑みを浮かべて言った。
「行こうぞ」
「そして三田尻で」
「無事に辿り着けたらな」
 幸村、特に海野に言うのだった。
「教えさせてもらう」
「それでは」
「それがしもです」
 幸村も確かな声で村上に言う。
「見事です」
「泳ぎきるか」
「そうします」
「貴殿の武芸は知っておる」
 幸村のそれは彼を知る者にとっては彼の代名詞ともなっている程だ。武芸十八般の者としてである。
「ではな」
「はい、泳ぎも」
「見せてもらおう」
「さすれば」
 三人で話してだ、そしてだった。
 泳ぎに出た、波は高く海は荒れに荒れていたが。
 三人は見事に泳いでいく、村上は自分に見事についてきている幸村と海野を見て笑みを浮かべて言った。
「うむ、やはりな」
「はい、このままです」
「我等はついていきます」
 二人も笑みを浮かべて村上に応える。
「三田尻まで」
「何があろうと」
「鮫が出てもじゃな」
「鮫が出ようが龍が出ようが」
「構いませぬ」
「倒せるか」
「そうしてみせます」
「昔鮫とも戦ったことがありまして」
 二人はこのことも話した、幸村が十勇士達と会いそうして多くの国を巡っていた時相模の海であったことだ。
「鮫が来ようとも」
「そのつもりです」
「そうか、わしも鮫は何ともない」
 村上もというのだ。
「どれだけ大きな鮫でもな」
「鮫に勝てぬ様では」
「水術はですか」
「極めたことにならぬ」
 到底というのだ。
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