厳しい現実
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連れてそれが原因ではないことがわかっていく。
まともにボールを投じることもできなければ、捕ることもほとんどできていない。完全に経験不足なことが見えてしまっていた。
ザワザワザワ
あまりの未経験者ぶりに興味を持って集まってきた生徒たちが次々に帰っていく。気が付いた時には、三人の見えるところには、一人の生徒もいなくなっていた。
「こんなはずじゃ・・・」
もっとできると、うまくいくはずだと思っていた三人だったが、厳しい現実に心が折れそうになる。だが、その三人を見守っていた青年は、全く別のことを考えていた。
(南は関節が柔らかいな。力はないけど、技巧派としてなら投げれるかもしれない。園田はボールがシュートしてるからそれを直させるか。高坂はまずフォームを安定させないとな。他にも細かくいじった方がいい箇所が随所にあるし―――)
ずっと野球をしてきたからなのか、少女たちの直すべき点も伸ばしていくべき点もすぐに理解できた。そんな彼の前に、絶望にうちひしがれている少女たちの手からこぼれ落ちた白球が転がってくる。
彼はそれを拾い上げると、指で数回弾いて感覚を確かめる。
「高坂!!」
「え?」
涙がこぼれ落ちそうになっている少女の名を呼ぶと、転がってきたボールを返球する。
シュッ
軽く投げたはずのボール。しかし、それは三人が本気で投げていたそれもよりも速く、糸を引くような軌道で穂乃果のグローブへと納まった。
「まだまだこれからだ。あんまり深く―――」
「すごい・・・」
「え?」
慰めてやろうと歩み寄っていった天王寺だったが、先程までと少女たちの雰囲気が変わったことに気が付く。その直後、顔をあげた穂乃果の表情を見て、度肝を抜かれた。
「先生!!今どうやって投げたんですか!?」
つい先程まで落ち込んでいたはずの少女は、それとは真逆の笑顔を浮かべ、天王寺に走り寄ってくる。
「今ボールから音が聞こえました!!」
「ボールが山なりじゃなかったよ!!」
全力で投げ合っていたはずの自分たちよりも、軽く・・・スナップスローで投じたはずの青年の球の方が遥かに速かったことに興奮している三人は、どうすれば今のように投げられるのかを聞くために詰め寄ってくる。
「教えるから!!一回落ち着け!!」
ズンズン迫ってくる少女たちを落ち着けようと宥める天王寺。そんな彼の姿を、遠目から見ている少女がいた。
「「天王寺剛って・・・まさか・・・」」
違う場所から同じ人物を見ていた明るい茶髪の少女と、ツインテールの少女。彼の投じたこのなんてことのない一球が、後に奇跡を起こす一つのポイントになった瞬間であった。
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