第五章
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後
「これが私の名前よ」
「そう。松本沙耶香ね」
「覚えてくれたかしら」
「私人の名前を覚えることは苦手だけれど」
これはその通りで。私はとにかく人の名前を覚えることは苦手だ。
けれど彼女の名前は。一度聞いただけでだった。
「覚えられたわ」
「それは何よりね」
「心にも刻んでおくから」
その名前をだ。そうだと述べた。
そしてだった。私はその美女沙耶香に言った。
「だからまたね」
「会いたいのね」
「ええ、それはいいかしら」
「いいわ。私は相手は拒まないわ」
沙耶香は妖しく、ここでもそう笑って私に言ってきた。
「絶対にね」
「わかったわ。それじゃあ」
「私は貴女が私に会いたい時に来るわ」
「それがわかるの」
「ええ」
その通りだとだ。私に言ってくる。
「そうなのよ。私はね」
「不思議ね。そんなことができるなんて」
「魔術師だから」
この言葉は冗談に思えた。沙耶香の。
「わかるのよ」
「魔術師、ね」
「そう見えるわね」
「そうね。魔女というよりはね」
ベッドの中の沙耶香の妖艶な美貌を見て。私は言った。
「見えるわ。魔術師にね」
「そうでしょ。じゃあ貴女が私に合いたいと思った時にね」
まさにその時にだと。沙耶香はその妖しい笑みで私に言ってくる。
「来るから。待っていてね」
「じゃあ。楽しみに待たせてもらうわ」
私もその笑みを受けて応えた。そうしてだった。
今は沙耶香と別れた。けれど彼女は心に刻み込まれた。
それを表す為に。私はあることをした。
胸元にだ。一つのものを入れたのだ。
露出の多い服を着て飲む私に。友達が尋ねてきた。
「あら、胸どうしたの?」
「何かあるけれど」
「それってまさか」
「ええ、タトゥーよ」
そのタトゥーを何気なく見せながら私は答えた。
「入れてみたのよ」
「ええと、文字?」
「文字のタトゥーね」
彼女のイニシャルを入れた。S・Mと。
その黒い小さな文字のそれとだ。黒百合のそれだ。
それを見せながらだ。私は女友達に言ってきた。
「それと花だけれど」
「何か凄く妖しいけれど」
「何で入れたのよ」
「彼氏でもできたの?」
「そんなところよ」
彼女とは答えずに。そのうえで答えた。
「危険でそれでいて魅力的な、ね」
「あら、遂に見つけたのね」
「見つけたんじゃなくて出会えたのよ」
友人の一人の問いにこう返した。微笑みで以て。
「嬉しいことにね」
「それでその出会いを胸に刻んだ」
「そういうことね」
「また会うわ」
沙耶香のことを思い浮かべながら私は言った。
[8]前話 [1]次 最後
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ