巻ノ八十八 村上武吉その三
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「しかしな」
「慢心せずにですな」
「満身は絶対にいかん」
幸村はそこは釘を刺した。
「わかっておるな」
「殿がいつも我等に言われていますな」
「拙者自身にも言っておる」
外ならぬ自分自身にもとだ、幸村は海野に話した。
「慢心はならぬとな」
「そうですな、確かに」
「人は慢心すればそこに隙が出来てな」
「隙が出来ればですな」
「そこから崩れてじゃ」
「滅びますな」
「だからじゃ」
それでというのだ。
「慢心、奢りや昂りともいうがな」
「そうしたものは持ってはならぬ」
「そうじゃ」
海野にあらためて言った。
「そこは守る様にしておる」
「左様ですな」
「己自身が誰よりもな」
何といってもというのだ。
「注意しておる。常にな」
「殿だからですな」
「拙者が慢心しては御主達も巻き込む」
そこから生じる隙にというのだ。
「だから常に戒めておる」
「まさに常に」
「そうしておる、ではな」
「はい、これよりですな」
「村上殿をお探しして」
「そのうえで」
「お会いしようぞ」
こう話してだ、幸村主従は村上が何処にいるのか探した。すると二人の忍としての資質がここで見事に発揮された。
二人は草木の声を聞いてだ、すぐに言い合った。
「わかったな」
「はい」
海野は主に毅然とした声で答えた。
「今しがた」
「そうじゃな」
「あの方は今は萩におられますが」
「今はじゃ」
「しかしお屋敷は違います」
「別の場所にある」
「しかしじゃ」
それでもとだ、幸村も言うのだった。
「今は萩におられる」
「ならばな」
「すぐに萩に向かいましょう」
海野は勇んだ声で言った。
「急げばです」
「お会い出来る」
「だからこそ」
「急いだ方がよい」
幸村も言った。
「萩におられてもな」
「あくまで今はで」
「じきにお屋敷に戻られぬやも知れぬ」
「だからこそ」
「すぐに萩に向かいじゃ」
「お会いしましょうぞ」
二人で話してだ、そしてだった。
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