第三章
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「少なくとも頭脳明晰で類稀なる才能があったのですから」
「ははは、そうだね」
「ただ、それはイギリスの話で」
天使は生きていた頃の自信を見せたワイルドにこうも言った。
「貴方は日本に生まれていましたら当時でもです」
「あの国は同性愛が普通だしね」
「そのことで捕まった人間は一人もいません」
「歴史においてだね」
「そうです、それ自体で罪に問われた人間はいません」
それこそ一人たりともというのだ。
「このことから恋愛沙汰や情痴事件になったことはありましても」
「日本では同性愛はそこまで一般だったんだね」
「同性愛のもつれで殺し合い、果ては仇討ちになったこともある位で」
「おお、それはまた見事な」
ワイルドは天使からその話を聞いて思わず声をあげた。
「日本人は美をわかっているな」
「伊賀越とか何とかいう歌舞伎にもなっています」
「素晴らしい国だ、そこまでとは」
「貴方が日本に生まれていたら何時の時代でも捕まっていませんでした」
「では私は生まれてくる時代と国を間違えたのか」
「そうなりますかね、ただ」
天使は考える顔になったワイルドにこうも言った。
「貴方は同性愛という大罪を犯しましたが」
「キリスト教においてはね」
ちなみにワイルドはプロテスタントの牧師の家に生まれている、奨学金を得てそのうえでオックスフォードを首席で卒業したのだ。
「そうだね」
「しかしその文化的業績が認められてここにいますから」
「煉獄でも地獄でもなく」
「多くの人に素晴らしい作品を読ませている功績で」
「生きていればもっと書き残せたんだがね」
ワイルドはここでまた自信を見せた。
「投獄さえされないと」
「天国にいますから、いいんじゃないですか?」
「あの時のイギリスに生まれて」
「はい、まあそれは運命ってことで」
「作品をあそこまで残せただけでもだね」
「いいんじゃないでしょうか」
「そういうものだろうか」
「貴方には地獄は合いませんよ」
天使はワイルドにこうも言った。
「人の世の牢獄でもあれだけ打ちのめされたのに」
「あんな思いは二度としたくないね」
「では天国にいるだけで、です」
「満足すべきかね」
「ここで思いきり美を讃えて下さい」
乗馬服とブーツ、鞭で洒落た格好をしているワイルドに言った。
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