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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第三十二話 イゼルローンにて(その2)
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ヴァレンシュタイン大佐は穏やかな笑みを浮かべていました。



宇宙暦 794年 10月20日  イゼルローン要塞 バグダッシュ


第二次撤収部隊がイゼルローン要塞に接岸した。シェーンコップ大佐は大部分の兵に後退命令を出し、自ら時間稼ぎをするために前線に出ようとしている。ヴァレンシュタイン大佐はリンツ少佐に捕虜を連れてくるようにと言うとシェーンコップ大佐の後を追った。

時間稼ぎをする場所は通路がコの字に曲がっている場所だった。百メートルほどの距離をおいて帝国軍と同盟軍が銃だけを突出し敵を牽制している。なるほど、此処なら敵を防げる。

しかし此処を撤退すれば、後は時間稼ぎを出来る場所はほとんどない。一気に帝国軍は攻撃をかけてくるだろう。後十五分程度は此処で時間稼ぎをする必要が有る。

「デア・デッケン、状況はどうだ?」
シェーンコップ大佐が話しかけたのは大柄な男だった。背はシェーンコップ大佐とほぼ同じか、だが厚みははるかに有る。

「向こうは戦意旺盛ですよ、大佐。何度かこちらへ突入しようとしました。まあ、撃退しましたが」
「当たり前だ、ここなら何時間でも連中に付き合えるさ」

リンツ少佐が捕虜を連れてきた。三人、いや四人だ。但し一人は背負われている。意識が無いようだ。
「ヴァレンシュタイン大佐、連れてきました」
「有難う、リンツ少佐」

「ヴァレンシュタイン大佐、彼らをどうするつもりです」
シェーンコップ大佐の問いかけにヴァレンシュタイン大佐は穏やかに笑みを浮かべた。
「彼らを帝国軍に返します。同盟に連れて行くような余裕はないですし捕虜を殺すのは気が引けますからね。此処で返します、それで時間を稼ぐ」

皆が訝しげな表情をした。捕虜の返還などそれほど時間稼ぎにはならない。だが大佐は少しも気にしなかった。
「後五分ほどしたら帝国軍に伝えてもらえますか、捕虜を返すから撃つなと」
シェーンコップ大佐がデア・デッケン大尉を見て頷いた。

五分後、デア・デッケン大尉が大声で捕虜を返すから撃つなと声を出した。
「さてと、卿らは一人ずつゆっくりと通路に出るんです。慌てて動くと敵と思われて撃たれますよ、良いですか?」
ヴァレンシュタイン大佐の言葉に三人が頷いた。そして大柄な男が問いかけてきた。

「キスリング少佐はどうする」
「卿らは向こうに着いたらこう言って下さい。もう一人動けない男が居る、その男は同盟の軍人が運んでくると。さあ行きなさい」

ヴァレンシュタイン大佐の言葉に三人が一人ずつゆっくりと通路に出る。緊張の一瞬だ、撃たれるのは帝国人だと分かっていても緊張する。幸い帝国軍は発砲しなかった。だがこれで稼げるのはせいぜい二分だ。しかし、キスリング? 何か引っかかるが……。

いや、問題は捕虜
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