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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第三十二話 イゼルローンにて(その2)
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大佐は天才だと言っていました。外れてくれればと思っていましたがやはり大佐の言った通りだったようです。こちらの作戦を見破って伏撃を仕掛けてきた……。大佐が自嘲交じりの口調で言葉を続けました。

「悪い予想が当たりました。やはりミューゼル准将がこちらの作戦を見破ったようです。唯一の気休めはミュッケンベルガー元帥は彼を無視している。そんなところですね」

シェーンコップ大佐が頷きながらヴァレンシュタイン大佐に問いかけた。
「出来るのですな、その男」
「出来ます……、こちらの状況はどうです」

シェーンコップ大佐がこちらに視線を向けました。釣られたようにヴァレンシュタイン大佐もこちらを見ます。バグダッシュ中佐が私を見ました。私は一つ頷いて大佐の問いに答えました。

「艦隊は負傷者、強襲揚陸艦の乗組員、そして第三混成旅団の約半数を収容しイゼルローン要塞を離れました。おそらく後三十分もすれば第二次撤収部隊がイゼルローンに到着します」

「問題は無い、そう見て良いのでしょうか?」
「問題は有る、敵がこちらの撤退に気付いた。攻撃が激しくなっている。艦隊が来ても撤退できるかどうか……」
苦渋に満ちたシェーンコップ大佐の声です。ヴァレンシュタイン大佐が顔を顰めました。

「此処から艦隊の到着場所までどんなに急いでも十分はかかる。艦に乗り込むまでにさらに十分、撤収作業には合計二十分はかかることになる」
「間違いありませんか?」
「間違いない、ミハマ大尉が撤収の所要時間をシャープ准将に確認した」

大したことではありません。シャープ准将と別れるときに撤収作業の時間を計って欲しいと頼んだだけです。第一次撤収作業は負傷者の搬送も含んでいます。おそらく第二次撤収作業は時間を短縮できるでしょう。それでもせいぜい二、三分です。やはり撤収作業には二十分かかると見た方がよいでしょう。

「大部分の兵を後退させ、少数の兵で時間を稼ぐ。タイミングを見計らって撤退し途中に仕掛けた爆弾で時間を稼ぐ……。今爆弾を仕掛けさせている。後十分もすれば終わるだろう」

シェーンコップ大佐の声は苦渋に満ちています。おそらく時間を稼いだ少数の兵が戻れる可能性はほとんどないと見ているのでしょう。

「私は最後まで残りますよ」
「ヴァレンシュタイン大佐!」
「シェーンコップ大佐は最後まで残るのでしょう。であれば私も残ります」
シェーンコップ大佐が一瞬口籠りました。

「……ヴァレンシュタイン大佐、貴官は戻ってくれ。貴官が戻っても誰も総司令部が、貴官が我々を見殺しにしたとは言わん。だから戻ってくれ」
何処か懇願するような響きのある口調でした。

「そうじゃ有りません。もしかすると味方の損害をもっと少なくできるかもしれないんです。だから此処に残ります」

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