巻ノ八十七 佐々木小次郎その十四
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「実は多くのものは求めておられぬのじゃ」
「そうなのですか」
「豊臣家に対して」
「そこまではですか」
「求めておられませぬか」
「うむ、しかしな」
それでもとだ、長宗我部はこうも話した。
「それを豊臣家、もっと言えばな」
「茶々殿ですか」
「あの方がですか」
「そのことをおわかりか」
「それが、ですか」
「それが問題なのじゃ」
まさにというのだ。
「あの方はとかく気位が勘気の塊であられるが」
「政のことはご存知ない」
「そして戦のことも」
「そうしたことはですな」
「まさに一切ですな」
「ご存知ない、わしも大坂におったことがある」
父である元親についてだ、それで大坂に行ってそのうえで茶々とも会ったことがあるのだ。
「しかしな」
「それでもですな」
「あの方を拝見しますと」
「どうしてもですか」
「何もかもをですか」
「おわかりになってないしご存知ない」
つまり全く何の役にも立っていないというのだ、こうしたことについては。
「逆におられるだけでじゃ」
「厄介ですか」
「そうした方ですか」
「あの方は」
「そうした方が大坂の今の主じゃからな」
それでというのだ。
「大納言様がおられれば。せめて関白様がおられれば」
「何とかなる」
「左様でしたか」
「まだ豊臣家の天下であっただろう」
秀長、最悪でも秀次がいればというのだ。
「しかしどの方もおられぬからな」
「茶々殿がおられ」
「あの方が大坂の主だからこそ」
「右府殿のそうしたお考えもですか」
「おわかりになられぬ」
全く、というのだ。
「だからな。大坂から出られぬ」
「大坂から出られぬのでは」
「どうしてもですな」
「右府殿としても引き下がれぬ」
「どうしても大坂が欲しいからこそ」
「それではどうなるかわかるな」
長宗我部はまたかつての家臣達に言った。
「天下は」
「はい、茶々殿がどうにかならねば」
「このままでは、ですか」
「戦になりますか」
「再び」
「そうなるであろう。そしてその時こそじゃ」
まさにというのだった。
「わかったな」
「その時こそですな」
「我等が動く時」
「そうなのですな」
「その時まで生きよ」
強い言葉で告げた。
「わかったな、わしも生きる」
「はい、そう致します」
「ではその時こそ」
「我等馳せ参じます」
「必ずや」
「今は己の身を保て」
そうして生きろというのだ。
「わかったな」
「そう致します」
かつて土佐にいた彼等はこぞって今も自分達が主と忠義を慕う者に応えた、彼が言うままに時を待つのだった。その時が来ること確信しつつ。
巻ノ八十七 完
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