第61話<睨み合い>
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私が、この鎮守府の司令だ。お前たちの要求は何だ?」
夜の港湾内に私の声がエコーして妙に響き渡った。まるで何処かの野外劇場みたいだ。その場の全員が海上に注目する。
いつの間にか探照灯を持った比叡は地面にへたり込んでいるが、それでも灯は持ち続けている。偉いぞ比叡、頑張れ。拡声器が無いのが惜しい。
他の艦娘も探照灯を持って後から追加している。睨み合いが続く中で湾内は、次第に明るくなっていく。白い肌の深海棲艦は更に眩く輝いていた。『彼女』は、しばし夜の風に、その長い髪をなびかせていた。それは本当に敵なのか?
(いかん、思わず見とれてしまう)
……そのくらい、神々しさすら孕み始めていた。
それは他の艦娘たちも同様らしい。多くの艦娘が呆けたような、何かにひきつけられるような表情を浮かべ始めている。
そして敵の手下共もまた、この場に偶然展開しつつある『彼女』の神々しいまでの雰囲気に感動すら覚えているようだった。何だろうか? この状況は……。
やがて相手は私の呼びかけに反応するように表情を動かした。
『ワカラナイ』
「は?」
初めて響く敵の肉声。妙に響く。それは湾内にエコーしているのか? それとも私たちの脳内に直接、話しかけているのか? いずれにせよ状況は不明だ。
しかし、相手が発した言葉の意味が理解出来ない。
『ナニモ、ワカラナイ』
『彼女』は再び言った。
「いや分からないのは、お互い様というか」
堪りかねた私は思わず返した。(私は何、敵に突っ込みいれてんだ?)
しかし何だろうか? この妙な……どこかで感じたような印象。
「そうか!」
私はハッと気付いた。これは、この数日間、美保で感じた艦娘たちの反応パターンとそっくりだ。
思わず鳥肌が……怖い方じゃなくて本当に武者震いがした。
(もしかして敵は新手の艦娘なのか?)
「いやいや違うぞ」
私は慌てて否定した。どう見ても相手は艦娘ではなく深海棲艦なのだ。
私が鳥肌の立っただろう両腕を押さえていると誰かが袖口をつかんだ。
「ん?」
「……」
寛代だ。この娘は、こういうときには、何故か近くに居るんだな? お前は。
「大丈夫だ、単なる武者震いだから」
それでも寛代は無言のまま私の袖口をさらに強くギュッとつかんだ。
つい私も空いた手のひらで寛代の手を握り返した。本当に不思議な子だよな……。
「さあ深海棲艦、どう出る?」
私は改めて海上を見て言った。
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