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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第三十話 救出作戦
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した? 彼と共に第二百十四条を進言したのかい? そんな事を彼が望んだと思うのか」
「……」
ワイドボーン大佐が唇を悔しげに噛みました。そしてヤン大佐はワイドボーン大佐から視線を逸らしました。
「彼が我々に話さない以上、我々に出来る事は無いんだ」
「……お前はいつもそうだ、気付いているのに何も言わない……」
「……」
ワイドボーン大佐は振り返るとグリーンヒル参謀長に話しかけました。
「閣下、閣下はヴァレンシュタインから相談を受けていたのですか?」
「昨日の事だ、少し無茶をするかもしれないと言っていた。それだけだ……」
「……少し無茶……」
ワイドボーン大佐が首を振っています。私も同じ思いです、第二百十四条の行使の進言が少し無茶……。一体大佐は何を考えているのか……。
「その後どういうわけか娘の話になった。大事にして下さいと言われたよ」
「……」
微かに参謀長が苦笑を洩らしました。
「今日、彼が第二百十四条を持ち出した時正直迷った。軍法会議で有罪になればどうなる、全てを失うだけじゃない、フレデリカも反逆者の娘と蔑視される、そう思うと正直迷った……」
「……」
艦橋ではグリーンヒル参謀長を責めるようなそぶりをする人間はいません。ただ黙って参謀長の話を聞いています。私はあの時参謀長を憎みました。でも今の参謀長の想いをあの時知っていたらどうだったでしょう。参謀長を憎む事が出来たでしょうか……。憎むより恨んだかもしれません。何故こんな事になったのかと……。
「正直彼を恨んだよ、何故そんなものを持ち出すのだとね。彼を見た時、全くの無表情だった。縋るような色も怒りの色も無かった。ただ無表情に私を見ていた。その時彼が何故娘の話を持ち出したのか分かった。例え私が二百十四条を受け入れなくても恨みはしない、そういうことだったのだと思う……」
「……」
「そう思った時、私は無性に自分が恥ずかしくなった。出世や保身のために将兵を見殺しにする人間と家族可愛さにそれを許してしまう人間との間にどれだけの違いが有るのだろうと……。そんな父親を娘は誇りに思えるのかとね……」
「……」
「ヴァレンシュタイン大佐には済まない事をしたと思っている。本当なら彼の進言が有る前に私が自分で決断すべきだった。だが私には第二百十四条の行使を考えることができなかった。その所為で彼を巻き込んでしまった……」
静まり返った艦橋に参謀長の声だけが流れます。静かな落ち着いた声ですが悲しそうに聞こえました。でもその思いに達するまでの葛藤がどんなものだったのか……。私にはとても想像できません。
「ハイネセンに戻れば軍法会議が待っている。娘には正直に全てを話すつもりだ。どんな結果になるかは分からないがきっと理解してくれると思っている……」
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