第58話<心の拠り所>
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うと彼女はチラリと上目遣いでこちらを見た。それはまるで悪戯をした少女が怒られるのを避けるようにしているみたいで可愛い。
「ふふ、安心してよ司令……アタシもこう見えて反省してンだから」
彼女は一瞬、手のひらを組んだまま海上で何かを吹っ切るように少し早く回転させた。
同時にサラサラの前髪が、ふわりと舞った。
「アタシも……司令と一緒に前を向いて進むンだから」
いつもの自然な笑顔に戻った北上は、また海の上でスッと静止した。
そして溜めていたものを吐き出すように言った。
「もう過去には戻らないって……うん、そうだよ。戻らなくても良いんだから」
何か自分に言い聞かせるように決意をこめた彼女の大きな瞳が印象的だった。舞鶴は、ずっと無言だな。
北上は改めてその大きな瞳で私を見た。
「司令や参謀がサ、どうこうってンじゃないから……これはアタシが自分で出した結論」
彼女は少し穏やかなホッとしたような表情になっていた。
「そうか……」
北上の純粋な心の告白を聞いていたら私の過去の壁までが共に崩れ去っていくようだった。
それは彼女や他の艦娘たちだけじゃない。舞鶴に対しても必要以上に後ろめたく感じていた自分がなぜか小さく思えてきた。自分自身を枠に押し込めて一人で勝手にもがいていた感じだな。
私も応えた。
「ああ、お前の言う通りだな。過去に囚われても何も戻ってはこない。時が来たら区切りをつけて一歩でも前に進むことだ」
私の言葉に北上もフッと笑った。私に呼応するように彼女は言った。
「私の戻る場所はサ、今はここなンだ。うん、そう思う」
それは彼女自身が言い聞かせるように聞こえた。北上は改めて舞鶴の方を向くと諭すように言った。
「もうアタシ決めたから……これで良いよね?」
「……」
舞鶴は、やっぱり何かを言いたそうだけど黙っていた。ハッキリ言えば良いのにな。
もっとも相手が北上では説得するのは難しそうだけど。
私は改めて彼女を見た。北上はいま、この瞬間に何かを決意したんだ。だから前よりもスッキリした表情になった。そして胸を張って、こちらの埠頭に向かって水面を歩き始めた。
「そうだよ北上。お前が決めるのが良い」
私は軽く腕を組んで言った。
そうやって節目を作って人は前へ進んで行く。それは艦娘だって同じだろう。
それは北上だけじゃない。他の艦娘たちだって我々と同じような葛藤を抱え、感情を抱いている。
むしろ彼女たちは我々以上に深い苦しみや哀しみを味わっている。だから我々は、もっと艦娘に寄り添うべきだろう。
人と違って記憶や思い出が霞んでいる艦娘にこそ新しい心の拠り所が必要なのだ。
私は悶々としている舞鶴を見た。
そも
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