第56話<轟沈と異動>
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彼女は私が舞鶴沖の海戦で敗走した後に他の鎮守府に異動になったらしい。
らしい……と言うのは私も、あの海戦後はしばらく現場から遠ざかっていたからだ。だから私も、その後の舞鶴の艦隊編成事情には疎い。気がつくと、いつの間にか北上は、ひっそりと舞鶴から消えていた。
軍隊の異動は、いつも突然だ。ましてや異動理由なんか機密事項に類するから当時下っ端の私が知る由もない。
彼女のショックを和らげるために上層部が事情を汲んで異動させたという噂もあった。つまり私が沈めた軽巡……あの重雷装艦と北上がとても仲が良かったらしいのだ。その艦娘が沈没したことにショックを受けた北上は以後、精神的に不安定になった……という噂もあったくらいだ。
いや実際のところは分からない。だが改めて思い返すと私が美保に着任した姿を見た彼女が慌てて逃げ出したのも何となく分かる気もする。その親友を轟沈させたのが他でもない私なのだから。
だが改めてショックを受けたのは私の方だよな……彼女を忘れようとするあまり……本当に忘れていた。薄情者だ。
「もしそうだったら、ごめん北上」
私は直接詫びたくなった。あいつには美保に来てからの私自身の行動も含めて申し訳ない。
そうやって私が過去を思い出している間にも夜の海の上では未だに妙な睨み合いが続いているようだ。
「いい加減、どっちか折れないかな?」
痴話ゲンカみたいな二人に割って入る気はないけど何だろう? ……さっきから妙な胸騒ぎがするんだ。変な緊張感。
この状況は早く収拾しないとまずい事になりそうな気がする。あの美保湾から深海棲艦に見つめられたときのような刺すような感覚だ。
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