暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
OVA
〜紺色と藍色の追復曲〜
あの時あの場所で
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転嫁に過ぎない。いっそ傲慢とすら言える。

力がないからって、あの少年の隣に立つことはできる。人は、ぶつかってこそ伝わることもあるのだから。

結局のところ、木綿季自身が今回、GGOで散々駆けずり回って、迷走して、傷だらけになりながら手に入れたのは、そんな誰でも少し考えたら辿り着けそうなちっぽけなことだったのかもしれない。

そう考えると妙に小気味よく、木綿季は少しだけ口端を上げながら気持ちを切り替える。

墓前の前でするような回想ではない。

次に思い浮かべたのは、少女にとって両親よりよほど身近だった存在だ。

―――姉ちゃん。

紺野藍子。

今から数えて()年前に交通事故によって死んだ、木綿季の実の姉。

姉とは言うが、藍子は木綿季と同じ日に生まれた双子だ。しかし物心ついた頃から、木綿季は妹として藍子に頼り、甘えてきたし、そんな木綿季を藍子は姉として優しく包んで守ってくれた。

似てない姉妹とは、よく言われたし自覚もある。

お淑やかという言葉とはまるで縁がなく、髪を伸ばした少年のように転げまわっていた幼い頃の木綿季を、一緒に遊んでいた蓮と一緒にたしなめてくれた。木綿季にとって、姉でありながら母のような存在だったのだ。

「姉ちゃんも……、久しぶり」

そっと木綿季は膝を折り、持って来た花束を墓前に供える。

冬の寒空の下で、白薔薇が虚ろに揺れる。

それだけだった。

姉にかける言葉は、それ以上出て来なかった。ノドでせき止められたように、言うべき単語の羅列が声として出て来ない。

言いたい言葉などいつだってある。

けれど、それを言った瞬間、どうしようもなくもの寂しくなるのだ。それを聞く当人が、もうこの世界のどこにもいないことを再認識させられるように。

数秒固まっていた木綿季は静かに立ち上がり、スカートを払い、墓前から足を踏み出す。

――――否。

踏み出そうと、した。



「「 あ 」」



そして、そして、そして――――



点と点がまた重なり、線となる。
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