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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二十二話 戦場を支配するもの
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知っていた。だが勝つためになら協力してくれると信じた、お前を信頼したんだ。だがお前はその信頼に応えなかった。だから怒ったんだ、そうだろう」
「……」

「信頼というのはどちらか一方が寄せるものじゃない、相互に寄せ合って初めて成立するものだ。奴は何度もお前と信頼関係を結ぼうとしたはずだ。だがいつもお前はそれを拒否した!」

「そうじゃない! そういうつもりじゃなかった!」
「だが結果としてそうなった! それを認めないのか!」
「……」
怒鳴りあいに近い言い合いでした。二人とも席を立って睨み合っています。先に視線を逸らしたのはヤン大佐でした。

「奴は亡命者だ。この国に友人などいない。このままで行けば奴はローゼンリッターと同じになるぞ。信頼関係など無く、利用だけする。磨り潰されればそれまでだ。だから逆亡命者が出る……」
「……」

ヤン大佐が無言で席を立ちました。そして部屋を出て行きます。ワイドボーン大佐は止めませんでした。
「あの、良いんですか?」

私の問いかけにワイドボーン大佐が手のひらを振りました。
「気にしなくて良い、奴も分かっているのさ。だが認められなかった。だから俺がそいつを奴に見せた。それだけだ」
「……」

「頭が良すぎるんだな、だから色々と考えてしまう。参謀としては得がたい才能なのかもしれないが生きていくには面倒かもしれん。動くよりも考えてしまう……。ヴァレンシュタインも同じだろう、似たもの同士だ」

あの二人が似たもの同士? 似ているような気もしますがそうじゃないような気もします。
「ヤン大佐はヴァレンシュタイン大佐ほど人が悪いようには見えませんけど……」

私の言葉にワイドボーン大佐が笑い出しました。
「戦争の上手な奴に人の良い奴なんていないよ。そんな奴は長生きできないからな」
「はあ」
分かるよう気もしますし、分からないような気もします、妙な気分です。

「あの、済みませんでした。私も何処かでヴァレンシュタイン大佐を信じていなかったと思います」
「まあ簡単な事じゃないからな、でも気をつけてくれよ。バグダッシュ中佐がヴァレンシュタインは臆病だと言っていたからな」

臆病? あの大佐が?
「臆病で人が悪い。だから追い詰められればとんでもない反撃に出る。厄介な相手だ、味方にしないとこっちが危ない」

「ワイドボーン大佐も人が悪いんですか? 士官学校を首席で卒業ですけど」
「残念だが士官学校を首席で卒業しても戦争が上手とは限らない」
「はあ」
私の間の抜けた声に大佐が笑い出しました。

「士官学校時代、ヤンにシミュレーションで負けた事がある。納得いかなかった。お世辞にも優秀とは言えない奴に十年来の秀才と言われた俺が何故負けるのだと。逃げていただけだと奴を非難した。
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