第十七話:殺人鬼の休日
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であった。
「で、でもよ。ラシャ兄は……あでっ!?」
「ストップだ一夏。それ以上いけない」
これ以上の問答は望まないラシャは、一夏にチョップを御見舞して黙らせることにした。この弟分は納得がいかないとなると、何処までも根掘り葉掘り訊こうとする悪癖が有る。学校の授業では美徳かも知れないが、時と場合によっては察して身を引くことも重要である。しかしながら、彼はそれを未だに弁えていない節が有る。
「俺の名誉のためにあれこれ言おうとしているのは結構なことだが、当の本人が『もう良い』と言っているのだ。それでも尚口を開くのは悪手だぞ?」
「わ、分かったよ…」
一夏は何か言いたげにラシャを見上げるが、謎の威圧感に敗けて渋々と言った様子で口をつぐむ。ラシャは満足そうに頷くと、更衣室の隅っこで縮こまっているもう一人の金髪少女に視線を向けた。
少女、シャルロット・デュノアは、イタズラがバレた子猫のようにビクリと身体を震え上がらせる。前回の詰問のトラウマがまだ癒え切っていないようだ。
ラシャは好都合とばかりに表情を微かに歪ませて、彼女のもとへ歩を進めた。
「此度のご不幸をお悔やみ申し上げます」
「へ?」
唐突に神妙な態度で深々と頭を垂れたラシャの様子に、シャルロットは完全に思考回路が麻痺してしまった。てっきりこの得体の知れない恐怖の用務員は、またしても自らに対して恐怖を煽るような言葉を投げかけに来たのであろうと覚悟を決めていたのだから。
「ご両親の事はニュースでお伺い致しました。まさかあのような事になるとは…」
ラシャの言葉に、一夏の表情も沈みこむ。自らが差し伸べた救いの手が彼にとっては思いもよらぬ影響を及ぼしたことに少なからずショックを受けているみたいだ。
「良いんです…両親は裁かれるべき人間でしたから…」
シャルロットもまた、目を伏せる。ラシャは彼女の目尻に溜まった雫をそっと拭ってやる。と同時に顔を寄せて──。
「では貴方もそろそろ裁きを?」
「!!!」
シャルロットの瞳に映ったのは、ラシャの手首に仕込まれた飛び出し式のナイフ。刹那、脳裏に稲妻の如く焼き付いていた光景がシャルロットの視神経を侵した。
「ぁ…あ…」
司法解剖と本人確認のためにフランスへ赴いたときに再会した物言わぬ父と義母。父は腹部から脊髄にかけて、義母は喉と下腹部にそれぞれ鋭いナイフによる刺突裂傷があった。ちょうどラシャの袖口からこちらを伺う切先がまさに───。
「ひぃぅっ!?」
どうにかシャルロットは悲鳴を押し殺した。恐る恐る顔を上げると、そこには穏やかな表情でこちらを見下ろす男の姿。だが、その瞳は絶対零度に冷え切っており、目を離すと何の躊躇いもなくこちらを殺傷しかねない
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