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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第十九話 帰還
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と信じているのは事実です。

あと一時間、一時間早く第五艦隊がヴァンフリート4=2に来ていれば……。言っても仕方ない事ですがそう思わざるを得ません。たった一時間です、その一時間が少佐を絶望させている……。

あれ以来、少佐は私達を以前にも増して避けるようになりました。いえ、一人でいる事を望みました。そしてハイネセン到着間際になって、姿が見えないこと、艦内放送での呼び出しにも答えない事から艦内を捜索した結果、部屋で倒れている少佐を発見したのです。

倒れている少佐を見たとき、私は足が竦んで動けませんでした。少佐が自殺したのではないかと思ったのです。バグダッシュ少佐に叱責され、ようやく少佐の傍に行く事が出来ました……。

どうすれば少佐を絶望から助けられるのか……。いくら信じてくれと言っても少佐の言う事が真実なら同盟は取り返しのつかない過ちを犯した事になります。簡単に許してくれるとは思えません。それを思うと溜息しか出ない……。

「何か用ですか、中尉」
いつの間にか少佐が眼を覚ましていました。ベッドに横たわったままこちらを見ています。笑顔はありません、ですが声をかけてくれるだけましです。

「少佐の昇進が決まりました。それをお知らせしようと思ったのです」
「……昇進ですか」
皮肉を帯びた口調でした。内心、気持が萎えかかりましたがこの程度で挫けていては少佐の信頼を取り戻すなど夢物語でしょう。

「少佐は大佐に昇進します。明日の九時に中佐に、そして午後一時に大佐に昇進するそうです。おめでとうございます」
「……」
少佐は少しも感情を見せませんでした、無表情なままです。喜ぶとは思いませんでしたが少しくらい驚いてくれたら……、内心で溜息を吐きました。

銀河帝国では大きな武勲を上げた軍人に対して時折二階級昇進があるそうです。ですが自由惑星同盟では二階級昇進は戦死者に対してのみ行なわれます。生者に対しては行なわれません。ですから今回のように時間をずらして昇進させます。

もっともこんな事は極めて異例です。以前、こんな形で二階級昇進したのはヤン中佐だけです。エル・ファシルで民間人三百万人を救った事に対して行なわれました……。

同盟軍が今回の少佐の働きをどれだけ高く評価しているかが分かります。もっとも昇進すればさらに戦場に出る事になるでしょう、少佐はその事を考えているのかもしれません。であれば喜べないのも無理はありません。

「私も昇進する事になりました。明日付けでミハマ大尉になります」
「……おめでとう」
「有難うございます! 少佐」

小さな声でした、何処か投げやりな感じにも聞こえましたがそれでも祝ってくれたのです。思いっきりお礼を言いました。少佐は今度は苦笑していました。馬鹿みたいだけどとっても嬉しかった。
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