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鉄仮面
第一章
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                 運のいい男
 フランスのある海岸でだ、とある漁師が一通の手紙を拾った。彼はそれが手紙であるとはわかった。しかし。
 彼は字が読めなかった、それで中身を開いて読んだことは読んだがだ。
 何をどう書いているのか、何か文字が書いているのはわかったがその内容は全くわからなかった。それでだった。
 彼は手紙を持ったままその場を立ち去ろうとした、しかし。
「待て」
 強い声でだ、彼を呼び止める声がした。声の方を振り向くと立派な身なりをして鬘を被った如何にもという外見の位の高い貴族と思われる男が兵士達を連れて来た。
 漁師は一体何事かと思い身構えた、その彼に立派な身なりの貴族はつかつかと歩み寄ってそのうえで彼に聞いた。
「そなたはその手紙を何処で受け取った」
「受け取ったというか拾ったのですが」
「拾ったのか」
「ええ、まあ」
 漁師は自分に振って湧いたこの状況に戸惑いつつ答えた。すぐ傍の岩場を指差して。青い海が波を打ちつけている。
「そこの海岸で」
「そうか、そしてそなたは手紙を読んだか」
「読みましたが」
 この言葉の瞬間に貴族の顔に稲妻が走った、何か只ならぬことであるのは明らかだった。
 しかしだ、漁師がありのまま言った次の言葉にだ、その稲妻は一瞬で消えた。
「ただ私は字が読めないのね」
「何、読めないのか」
「はい、全く」
 こう答えた。
「何をどう書いてあるのかさっぱり」
「わからないのだな」
「そうです」
 こう貴族に答えた。
「本当に何が何だか」
「そうか、そういえば平民は普通はな」
 貴族は漁師の言葉から彼が平民であることを思い出しそうして言った。
「字は読めないな」
「村でも滅多に」
「わかった、もういい」
「いいのですか」
「そなたは運がいい」
 貴族はにこやかに笑ってだ、漁師にこうも言ったのだった。
「何もない、では帰っていい」
「左様ですか」
「うむ、これからも仕事に励む様にな」
「それじゃあ」 
 漁師は訳がわからないままだ、それまでとは一転して優しいものになった貴族の言葉を受けてだった。そのうえで。
 自分の仕事に戻った、彼にとっては訳のわからないことだった。
 しかしだ、彼はこのことを家族に話し話は代々続いた、そして二十一世紀になった時にだった。
 この漁師の子孫であるマルグリット=モンドールは通っている大学でだ、友人達にその奇麗なブロンドの長い腰まで伸ばした自慢の髪を掻き上げつつ話した。白い肌に睫毛が長い切れ長の黒い瞳で紅の小さな唇が面長の顔に映えている。一五〇位で小柄だがスタイルはいい。ズボンとコートのファッションをパリジェンヌの様に着こなしている。
 その彼女がだ、コーヒーを飲みつつ言うことはというと、
「実はうちは
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