第一章
[2]次話
監獄ロック
刑務所に入ったことはない、けれど。
俺は今刑務所に向かっている、車の中でその車を運転しているマネージャーにこう言われた。
「これも仕事でな」
「刑務所で歌うこともですか?」
「そうだよ」
ギターを持っている俺にこう言ってきた、これが俺の商売道具だ。
「それもね」
「あの、確かに歌いますけれど」
「ステージや番組で歌うだね」
「あと路上で」
路上ライブもよくしている、駆け出しのロッカーの俺にとってはこれも大事な宣伝になっている。
「とにかく歌うならです」
「君はいいよな」
「それはそうですが」
「刑務所ではだね」
「歌うなんて」
それこそだ。
「想像していませんでした」
「そうだろうね、しかしね」
「これもですか」
「仕事なんだよ」
「慰問ですか」
「うちの事務所の社長は慰問とか慈善にも力を入れていて」
このことは知っている、事務所の社長はそうしたこともしないと人間として駄目だと言っている、そのせいか事務所の経営はホワイトで俺も随分といい契約をしてもらって有り難いと思っている。
そしてだ、その社長がというのだ。
「こうしてね」
「刑務所の慰問もですか」
「あと障碍者施設にも行くよ」
「それはいいことですね」
障碍者施設の慰問と聞いてだ、俺はすぐに言った。
「いや本当に」
「そうだよね」
「老人ホームの慰問とか」
「それもしているよ」
「いや、本当にです」
俺は思わず後部座席から身を乗り出してマネージャーに言った。
「いいことしてますよ」
「君もそういうのはいいんだね」
「というかですね」
俺は自分でもわかる位熱くなってマネージャーに語った。
「やっぱり人間そうしたことをしないと」
「駄目だね」
「はい、人間老いますし」
「誰もがね」
「そうなる可能性あるんですから」
所謂障害者にだ。
「そうしたことも頭に入れて」
「慰問もだね」
「必要です」
「その通りだよ」
「はい、しかし」
「刑務所はなんだ」
「犯罪者ですよ」
俺は素直に自分の考えを言った。
「ですから」
「だからだね」
「悪いことをした連中の慰問ですか」
「君犯罪者は嫌いか」
「犯罪者は犯罪者ですよ」
また言った。
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