第一章
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隠し場所
彼イワノフ=アルチェンコフの仕事はスパイだ。軍の諜報部にいて敵国、彼の祖国にとっては不倶戴天の国に留学生という名目で潜入していた。その中でだ。
留学生という立場からある大学の教授に接近した。その教授は兵器、それも戦闘機開発に携わっている人物だった。
その彼についてだ・。アルチェンコは彼のアパートで密かに同僚であるウラジミール=コズイレフ大尉にこう話した。
二人でこの国の料理を食べる。アルチェンコはまずは料理について言った。部屋のあちこちに蝶の図鑑、それに標本採集がある。これはアルチェンコの趣味だ。
「どうもな」
「よくないな、味が」
「口に合わない。調味料が多過ぎるか?」
「化学調味料だな」
それが多くて彼等の口に合わないのだった。
「それが多過ぎるな」
「全くだな。ところでだ」
「ところでとは?」
「仕事のことだ」
アルチェンコはここでコズイレフに言った。
「私の行っている大学の教授のことだが」
「ワルンシュタット教授か。戦闘機開発の権威の」
「そうだ。そのワルンシュタット教授の私室か研究室の机の中にだ」
「軍事機密があるか」
「その様だ」
スパイとして調べていってだ。アルチェンコはその在り処を掴んだのである。
「もう少しで手に入れることができる」
「そうか。やってくれたな」
「私なりにな。ただな」
アルチェンコは彼等にとっては味の濃い料理を食べながらコズイレフに述べた。その味の濃さにはいささか辟易したものを感じながら。
「問題はその手に入れた情報をだ」
「どうして祖国に持って行くか、か」
「この国の公安も馬鹿ではない」
少なくともアルチェンコは侮っていなかった。
「私のことに気付いているかもな」
「迂闊なことはできないな」
「そうだ。気付かれていると思っていた方がいい」
こうコズイレフに言うのだった。
「用心してな」
「では機密を手に入れてもだな」
「そのまま君に渡すことはしない」
軍では同じ階級にある彼に言った。
「そうするからな」
「では具体的にはどうするのだ?」
「かなりのことでもわからないようにはする」
「かなりのことでもか」
「考えがある。任せてくれるか」
コズイレフの灰色の目を自身の黒い目で見据えながらの言葉だった。二人共軍人らしく長身でしっかりとした体格である。
二人共一応服装はこの国のものだ。だがだった。
雰囲気も努めて隠しているがやはり剣呑なものがある。かなり鋭い者ならわかるそれを秘めて話をするのだった。
「私にな」
「わかった。ではな」
「渡す場所は祖国だ」
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