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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第十七話 一時間がもたらすもの
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ンが暗い笑みを浮かべた。自嘲だろうか?
「悲観し過ぎだ、貴官なら勝てるだろう?」
励まそうと思って故意に明るい声を出した。だがヴァレンシュタインは何処か投げやりな口調で答えた。
「勝てませんね、私など彼の前では無力なウサギのようなものです。これから先、彼が力をつければ益々私は勝てなくなる。それどころか簡単に踏み潰されるでしょう、賭けても良い」
「……」
部屋に不自然な沈黙が落ちた。ヤン中佐の顔面は蒼白だ。一時間の遅れ、それが何を引き起こしたか、何故ヴァレンシュタインがあれほど自分に絡んだかが分かったのだろう。そしてミハマ中尉は泣き出しそうな顔でヴァレンシュタインを見ている。
「シトレ元帥はこれからも私を最前線で使いたがるでしょうね。そうなればラインハルトと出会う機会も増える……」
その後をヴァレンシュタインは言わなかった。だが皆がその先を理解しただろう。何時かはラインハルト・フォン・ミューゼルに殺される……。
「貴官らの愚劣さによって私は地獄に落とされた。唯一掴んだ蜘蛛の糸もそこに居るヤン中佐が断ち切った。貴官らは私の死刑執行命令書にサインをしたわけです。これがヴァンフリート星域の会戦の真実ですよ。ハイネセンに戻ったらシトレ本部長に伝えて下さい、ヴァレンシュタインを地獄に叩き落したと」
冷笑と諦観、相容れないはずの二つが入り混じった不思議な口調だった。
「少佐、我々は」
俺は何を言おうとしたのだろう。訳もわからず声をかけたが返ってきたのは冷酷なまでの拒絶だった。
「聞きたくありませんし聞いても何の意味もない。話は終わりました、出て行ってください。私は不愉快だ、もっとも私の立場になって不愉快にならない人間が居るとも思えないが……」
そう言うとヴァレンシュタインは笑い始めた。希望を無くした人間だけが上げる虚ろな笑い声だった……。その笑い声と共に声が聞こえた。
「同盟市民になって欲しいか……。その結果がこれか……。笑うしかないな、馬鹿馬鹿しくて笑うしかない……」
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