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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第十七話 一時間がもたらすもの
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変化に皆が息を呑んだ。

「私はヴァンフリート4=2へ行きたくなかった。行けばあの男と戦う事になる。だから行きたくなかった」
「あの男?」
恐る恐るといった感じのミハマ中尉の問いかけにヴァレンシュタインは黙って頷いた。

「ラインハルト・フォン・ミューゼル准将、戦争の天才、覇王の才を持つ男……。門閥貴族を憎み、帝国を変える事が出来る男です。私の望みは彼と共に帝国を変える事だった」
「……」

ラインハルト・フォン・ミューゼル、その名前に思わずミハマ中尉と顔を見合わせた。彼は皇帝の寵姫、グリューネワルト伯爵夫人の弟だったはずだ。それが戦争の天才? 覇王の才を持つ男?

「彼を相手に中途半端な勝利など有り得ない、彼の自尊心を傷つけ怒りを買うだけです。私は未だ死にたくない、だから彼を殺してでも自分が生き残る道を選んだ。たとえ自分の夢を捨てる事になっても」
「……」

「幸い彼は未だ階級が低くその能力を十分に発揮できない。だから必ず勝てる、必ず彼を殺せるだけの手を打った……。おそらく最初で最後のチャンスだったはずです。それなのに……」

ヴァレンシュタインが唇を噛み締めている。そして睨み据えるようにヤン中佐を見ていた。俺もヤン中佐も、そしてミハマ中尉も何も言えずにヴァレンシュタイン少佐を見ている。

「第五艦隊の来援が一時間遅れた……。あの一時間が有ればグリンメルスハウゼン艦隊を殲滅できた、逃げ場を失ったラインハルトを捕殺できたはずだった」
ヴァレンシュタインは呻くように言って天を仰いだ。両手は強く握り締められている。

「最悪の結果ですよ、ラインハルト・フォン・ミューゼルは脱出しジークフリード・キルヒアイスは戦死した。ラインハルトは絶対私を許さない」
ジークフリード・キルヒアイス? その名前に不審を感じたのは俺だけではなかった。他の二人も訝しそうな表情をしている。俺達の様子に気付いたのだろう、ヴァレンシュタインが冷笑を浮かべながら話し始めた。

「ジークフリード・キルヒアイスはラインハルトの副官です。ラインハルトには及ばなくともいずれは宇宙艦隊を率いるだけの力量の持ち主だった。そして親友であり腹心であり、彼の半身でも有った……」
「……」

少しの間沈黙が落ちた。ヴァレンシュタインはポケットから何かを取り出しじっと見ている。ロケットペンダント? そして顔を上げるとノロノロとした口調で話し出した。

「ラインハルトは私を許さない。彼にとって私は不倶戴天の仇であり帝国を捨てた裏切者です。今回は私の前に敗れたがそのままで済ます男じゃありません。必ず私を殺す事に執念を燃やすでしょう」
「……」

「彼が武勲を上げ地位が上がれば、その分だけ彼の持つ権限も大きくなる。そして何時か私を殺す……」
ヴァレンシュタイ
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