百十四 こめられた想い
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向こうから徐々に姿を見せる影を認めて、眼を細めた。
「さて。出迎えてやるとするか…」
風が吹き抜けて一瞬の晴れ間に、噴火が止まった火山が見えた。
紫苑を抱えてゆっくりと地上へ降りる。足の爪先が地に触れ、地面に無事着地するや否や、ナルトは小さく囁いた。
「もういい、黎明…礼を言う」
そう呟くと、ナルトの背中から生えていた黒い両翼がすう…と消えてゆく。
空気に溶け込み、まるで最初から無かったかのようにナルトの背から羽根は無くなった。
何も生えていない彼の背中を紫苑は暫し興味深げに見つめたが、やがてナルトに未だ抱きかかえられている我が身に気づいて、ぼっと顔を赤くさせる。
「お、下ろしてくれ」
紫苑の言葉に応じ、ナルトは彼女をそっと地上に下ろす。足場はゴツゴツとした岩場だったが、紫苑はそれに気を悪くする事もなく、ナルトの隣に寄り添うようにして立った。
かつて封印の祠があった所を見下ろして何やら感慨に耽る紫苑に、ナルトは視線を火山に向けたまま、軽く肩を竦める。
「これで巫女様稼業も終わり、か…」
「…いや」
わざと明るい口調で話すナルトに、紫苑は頭を振って否定を返した。
「これからも巫女は続けねば。【魍魎】の中で気づいた。この世に妖魔を生むのは、人の悪しき心…第二・第三の【魍魎】が現れぬと誰が言えよう」
初めて出会った時とは別人のような晴れやかさで微笑む紫苑の眼を、ナルトはじっと見返す。やがて彼は紫苑の手をそっと取った。
だしぬけに手を握られ、動揺して顔を赤くした紫苑は、自分の手中でコロリ、と転がったソレに眼を瞬かせる。
ゆっくりと手を開ければ、そこには紫苑の宝物であり、母の形見でもある、あの鈴があった。
「ど、どうして…だってこれは、【魍魎】を倒すのに…」
【魍魎】を完全消滅させるに至って、ナルトと紫苑のチャクラが込められた鈴を用いた。故に、鈴は【魍魎】と一緒に消滅したはずだ。
それがどうして自分の手の中にあるのだろう、と戸惑う紫苑に、ナルトは事も無げに答えた。
「大事なもの、なんだろう?」
鈴が紫苑にとって大切なモノである事実にナルトは随分前から気づいていた。あれだけ肌身離さず身に着けているのだから、それはそうだろう。
だからナルトは、術を打ち込む寸前に、力を圧縮させて取り込んでいた鈴を咄嗟に手に戻し、鈴の中のチャクラだけを【魍魎】に食らわせたのだ。
まさかもう二度と眼にすることは叶わぬだろう鈴が手元に戻ってきた。
その事実に、暫し固まっていた紫苑は、やがて鈴をナルトの手へそっと返した。
思いも寄らぬ紫苑の行動に、逆にナルトのほうが僅かに戸惑う。不思議そうに眼を瞬かせるナルトに、くすり、と紫苑は微笑した。
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